この記事ではウルトラマラソンやトレランでの眠気対策について私の考えをまとめていこうと思います。
私は24時間走や250km級のウルトラマラソンをよく走るので、眠気でパフォーマンスを低下させないというのは大きなテーマの1つでした。
大会や夜間走を通じて色々経験してきて実感していることがあります。
それは、眠気から完璧に解放されることは難しいけれど、そのキツさやパフォーマンスへのマイナス影響は知識によってかなり軽減することができるということです。
ぜひ以下で紹介する方法を参考にして大会で満足のいく走りができるようお役立てください。
ショートスリーパーの素質が無くても大丈夫
私は大会で眠気に悩まされることは少ない方です。
そう言うと「小谷さんは日常的にもショートスリーパー(短時間の睡眠でも足りる体質の人)なのですか?」と聞かれるのですが、そんなことはありません。
日常的には毎日7時間半は眠りたいし、それができない時は昼寝の時間を確保するようにしています。
そんな私でも大会では(他のランナーと比較して)眠気には強い方だし、眠気が原因で大会がダメダメになってしまうことはまず無いと思えるほど自信をつけることができました。
なので、この記事を読んでいるあなたも知識をつけて何度か練習や大会で経験すれば同じような自信を持つことができると思います。
ぜひ騙されたと思って以下の内容を頭に入れて繰り返し実践してみてください。
補給を成功させて低血糖と低ナトリウム血症に由来する眠気を予防する
ウルトラマラソンやそれに準ずるトレランで眠気を引き起こす原因に低血糖と低ナトリウム血症があります。
低血糖は主に糖質の補給が不足していることが原因。
低ナトリウム血症は塩分補給が不足していることが原因です。
よって、低血糖と低ナトリウム血症を予防するために適切な補給をすることが必要となります。
ウルトラマラソンの補給方法についてはこちらの記事でまとめました。
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ウルトラマラソンの補給方法|失速を予防し長時間走り続けるために
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上記の記事は眠気対策としてだけでなく、超長時間パフォーマンスを維持し続けるためにも役立つと思いますので、ぜひご覧ください。
レース中もインスリンショック(低血糖)対策に低GIの補給をすべきか?
ランニング中の低血糖についてインスリンショックを心配される方がいらっしゃいます。
インスリンショックとは血糖値の急な上昇によってインスリン(血糖値を下げるホルモン)が大量に分泌され、逆に低血糖になってしまうことをいいます。
なので「インスリンショックが起きないようにレース中の補給でも血糖値の上昇が緩やかな糖質(GI値が低い)を補給するように心がける方が良い」という考えがあります。
しかし、私個人としては、あまりその心配をする必要はないのではないかとっています。
というのも、ランニング中は交感神経が優位になっているのですが、交感神経が優位な時はインスリン分泌が抑制されることがわかっているからです。
実際に私はGI値は気にせずガンガン糖質を補給していましたがインスリンショックと思われる症状にはなったことがありません。
これまでセミナーで情報交換してきたウルトラランナーの方たちの体験談を聞いても、GI値が高い補給をしてインスリンショックで失敗したというケースはほとんどありませんでした。
どちらかというと、インスリンショックを気にして糖質の補給を控えめにしていた方たちの方が絶対的な糖質量が不足してしまい、その結果としてガス欠や低血糖に陥っているケースの方が多いように見受けられます。
逆にランナーがインスリンショックに気をつけないといけないタイミングはスタート前の糖質摂取だと私は考えています。
特にスタート30~45分前のタイミングに血糖値が上昇しやすい糖質を大量に摂取するとリスクが高くなります。
(インスリンによる血糖の取り込みと運動による血糖の取り込みが重なり一気に血糖値が下がりやすくなるため)
ウルトラマラソンであれば30分以上しっかり休むタイミングというのもあるかもしれません。
その時もスタート30~45分前と同様にインスリンショックに気をつけても良いでしょう。
言い換えると、ほぼ走り続けているのならインスリンショックはそれほど気にしなくて良いのではないかということです。
カフェインは眠気対策としてだけでなく、スタートから飲めばパフォーマンスアップに役立つ
眠気覚ましとしてカフェインを利用している方は多いと思います。
また、カフェインはエルゴジェニックエイド(運動能力の増加が期待できる成分)でもあるので、眠気とは関係なくレース中に3~4時間おきに飲むという人もいるでしょう。
私個人としてもカフェインは眠い時に眠気覚ましとして使うのではなく、スタート前から継続的に飲むことをおすすめしています。
(その使い方でもきちんと眠気対策として効果があります)
こちらの記事ではカフェインの眠気対策に限らない活用方法を紹介しました。
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マラソンでのカフェイン活用法|タイミングや効果と注意点
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また、カフェインと同じく覚醒作用のある成分にマンゴー葉エキスがあります。
マンゴー葉エキスはカフェインと作用機序が異なるため、2つを同時に摂取することでより強力な覚醒作用が得られるというデータもあります。
Catalyst Zoneはカフェインとマンゴー葉エキスを配合したレース用サプリですが「カフェイン単体のサプリより効いた」という声も寄せられており、眠気対策におすすめです。
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Catalyst Zone
即効で最高の集中・パフォーマンス状態であるZone(ゾーン)に入れるようにサポート。レースでの使用を想定し、全ての成分を即効性で合格点のものに厳選したエルゴジェニックエイド。カフェインとマンゴー葉エキスの相乗効果で強力覚醒。水素で疲労対策。
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レースモードを維持し続ければ眠くなりにくい
退屈な会議では眠くなるけど、好きなことをしていると目がさえる。
こんなことは誰もが日常的に経験していることだと思います。
つまり、心の状態(さらにいうと脳内ホルモンの状態)によって、眠くもなれば、覚醒もするということです。
この知識をレース中に応用するにはどのように考えたら良いでしょうか?
私の場合はこれを「レースモードを維持し続ける」と呼んでいます。
「このまま走れば目標タイムが達成できるぞ!」
「周囲のランナーはキツそうだけど、自分はまだまだ余裕があるし、順位も上がってる!」
そんな風に思える時間帯をできるだけ長くキープすることです。
ランナーの経験談などを読んでいると「夜間に眠気が襲ってきて、そこから一気にペースダウンしてキツい時間帯がやってきた」というような内容を目にすることがあります。
それが間違いということでは決してありませんが、私は経験上そのようになることは少なくて、むしろ逆のことの方が多いのではないかと思っています。
「補給やペース配分などの問題で少しずつレースを計画通りに運べなくなり、そのネガティブな気持ちや不安が眠気を誘発する」
つまり、眠気が原因で上手く走れなくなるのではなく、順番が逆で、上手く走れなくなっていることが眠気を引き起こし、更にキツい状況に追いやっているということです。
「このまま頑張れが欲しいものが手に入れられる」という報酬の予感(モチベーション)の低下が眠気を引き起こすとも言えます。
レース中の眠気で悩まされてきたという方は、特にいつも眠気が強くなるような時間帯を肉体的に余裕を持って迎えられるようにレース戦略を立てると効果があるのではないかと思います。
例えば、2~5時の時間帯が眠くなりそうだと予測しているなら
1~2時の1時間はあえてペースを落とし、補給もゆとりを持って行いエネルギーを蓄えておく。
結果として2~5時の余裕度が上がり、その時間帯に順位も上げやすくなり気持ちが高まる。
こんな風に自分の心境をイメージしながらレースを組み立ててみてはいかがでしょうか。
ウェアを調整して深部体温と皮膚温度の差を大きくする
人の体は「深部体温と皮膚温度の差が大きいときほど覚醒しやすい」ということがわかっています。
就寝の90分前にお風呂に入るとよく眠れると言われますが、これは
- お風呂に入って一時的に深部体温が上がる
- 上がった深部体温を下げようと手や足から放熱が始まる
- 深部体温が(お風呂に入らなかった場合より)下がり、結果として皮膚温度との差が縮まる
という反応が90分間くらいで起きるからです。
この知識を利用すれば、レース中にウェアを調整することでも眠気を多少はコントロールできることがわかります。
例えば、次のようなケースは失敗しやすいことがわかります。
- 寒いからといって一気に着込んでストーブにあたる(温めすぎた場合)→ 深部体温が上がりすぎ、逆にその後に放熱が始まって深部体温が下がって眠くなる
- 「寒い方が目がさえる」と考えて寒すぎるのに軽装で走る(冷やしすぎた場合) → 深部体温まで下がってしまい眠くなる。(雪山で遭難状態)
温めすぎても、冷やしすぎてもダメなのでバランスが重要となります。
このバランス感覚はある程度経験して自分なりの感覚をつかむ必要があるでしょう。
経験を成長につなげていくためにも、まずは気温とペース(速いほど発熱量が多い)に応じてウェアを適切に調整することで眠気が変わるということを覚えておくことから始めましょう。
ちなみに、私個人としては「体幹部は適温に感じられて、首から上と前腕から手のひらにかけてはやや涼しい」と感じるくらいのときがパフォーマンスが高いように思います(眠気も気になりにくい)。
眠気対策のバリエーション
眠気対策は1つではなく、いくつかのバリエーションを用意しておくとより安定感が高まります。
人それぞれ好みは違いますが、下記のリストは眠気対策としてランナーが取り入れているものです。
(私の24時間走の場合は先述の事項を徹底するだけでほぼ睡魔対策としては十分なので、下記の項目はさほど重視して実行していません。強いて言えば、目に光を当てるのはタイムロスも少なくてやりやすいので好んでいます)
- ライトの光を明るくする。目に強い光を当てる。
- 目薬
- ガムを噛む、咀嚼する
- 歯磨きをする、口内をスッキリさせる
- 人と会話をする
- 眠気覚ましのツボを押す(眉毛の間あたり)
どうしても眠い場合は5~15分の仮眠がおすすめ
いくら眠気対策をしても、睡眠欲は本能的な強い欲求のため抑えることが困難であることも事実です。
眠気が強いままフラフラ走って事故など起きたら取り返しがつきません。
安全のため、あるいは眠った方がかえって効率が良いと判断した場合は仮眠をとることも選択肢に入れましょう。
仮眠をとると決めたらどれだけ寝るかに悩むと思いますが、私の経験や他のランナーの声から察するに5~15分程度と短めにすることがおすすめです。
1回の仮眠で回復を感じなかったら2回、3回とるなど頻度を上げる方が時間効率としては良さそうです。
(ただし、競技時間にもよります。私は6日間走に2回参加したことがありますが、そのときの上位選手の眠り方にはそれぞれ個性があるように思えました。ほとんど眠らないで動く時間を最大化する人もいれば、3~4時間半しっかり寝て走るという人も。
48時間くらいまでのレースなら上記の短時間の仮眠が良いと思います)
まとめ
- ショートスリーパーでなくても知識と練習で睡魔には強くなれる
- 補給をきちんとして低血糖と低ナトリウム血症に由来する眠気を防ぐ
- カフェインは眠気対策に役立つ。レース全体の記録で考えるならスタート前からの摂取がおすすめ
- レースモードを維持し続けられるようなレース運びをする
- ウェアで体温を調整することは眠気と関係する
- 仮眠をとることも戦略のうち。5~15分の短い仮眠でも効果がある