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フルマラソンのスタート前とレース中の補給|よくある失敗の予防と記録向上の方法

2023年10月26日

この記事ではフルマラソンのスタート前とレース中の栄養補給についてご紹介します。

フルマラソンではエネルギー、水分、塩分など、多くの成分が体から消耗されていきます。
それらをきちんと補給できないとどれだけ体を鍛えても存分に力を発揮することができません。

この記事を読むことで、練習で鍛え上げた実力を100%発揮することができるようになるでしょう。

マラソンのスタート前に飲むサプリ

カフェインはパフォーマンス向上のために最もおすすめ

マラソンのスタート前で最もおすすめの成分をあげるとするなら、それはカフェインです。

持久力アップが期待できる成分はいくつかありますが、その中でもカフェインはエビデンスが豊富で確実性が高い成分です。

その効果は「そもそもカフェインは元々ドーピング対象だった」という事実からも明らかです。

カフェインは次のようなメカニズムでフルマラソンの記録向上に役立ちます。

  1. 脂肪の分解を促進し、エネルギーとして脂肪を利用しやすくする。
    その結果として筋肉のグリコーゲンが温存されてガス欠のタイミングを遅らせる。
  2. 運動神経の興奮性を高めてより多くの筋繊維が活動に動員される。
  3. 疲労感と関係する神経伝達物質の働きを阻害して、主観的な疲労感が軽減される

カフェインを摂取するタイミングはスタート30分前が目安です。

私の体感的には3~4時間くらいで効果が弱くなってくるので、ゴールタイムが3時間半~くらいの方は30km地点くらいでもう一度カフェインを摂取しても良いかと思います。

1回あたりのカフェイン摂取量は100mgくらいで良いと思います。
(コーヒー250mlでカフェイン100mgです)

注意点としては、遺伝的にカフェインによって逆に調子を崩してしまう体質の人もいることです。

普段からコーヒーなどを飲むと調子が悪くなると感じる方は無理に摂取しないようにしましょう。

また、コーヒーのように飲料で飲むと体の水分量が増えすぎてトイレに行きたくなるリスクが高まります。

トイレリスクを避けるためには錠剤やカプセルなど、水分をあまりとらなくて良い方法の方が良いでしょう。

マラソンにおけるカフェインのより詳細はこちらの記事にまとめています。

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脂質代謝を高める成分は後半の失速予防におすすめ

後述するようにフルマラソンでは多くのエネルギーを消費します。

主なエネルギー源である糖質(筋肉や肝臓に蓄えられている)が減ってくると、エネルギーを作りにくくなり、脚が重くなっていきます。

人は糖質だけでなく、体脂肪もエネルギーとして活用することができます(そして、体脂肪は十分なエネルギー量があり、枯渇するリスクがありません)。

脂質代謝(体脂肪をエネルギーとして活用する能力)が向上すると糖質枯渇によるパフォーマンス低下を予防することができます。

よって、脂質代謝を高めるとされる成分はフルマラソンの記録向上に役立つと考えられます。

脂質代謝を向上させる成分はLカルニチンやHCAなど様々な成分が知られていますが、注意したいのはその即効性です。

日常的にサプリメントとして摂取して体質を改善していく目的なら話は別ですが、レース当日に使用して成果を出したいなら即効性が高いと考えられている成分を使った方が良いでしょう。

その点でいうと、例えばカプサイシンは即効性が高く、血流促進の効果もあるのでフルマラソンのスタート前のサプリとしてはおすすめの成分です。

栄養メモ

ただし、カプサイシンといってもトウガラシ純末を使用したものは刺激物のため消化器官に負担となる可能性もあります。

カプサイシンのサプリの中には特許製法により、消化器官に影響をあたえず生体吸収性に優れている赤唐辛子抽出物が原料に使われているものがあり、大事なレースで使用するならそちらの方がおすすめです。

また、カプサイシン(総カプシノイド)の量は多すぎると糖質代謝の活性が強くなってしまうためフルマラソン対策としては多すぎず、少なすぎずの適量が求められます。

Lカルニチンも即効的に作用する部分があるようですが、それでも4時間はかかると以前データをみたことがあります。

Lカルニチンを使用するなら、スタート直前ではなく、当日の朝から摂取しておく必要がありそうです。

Catalyst Zoneは私が開発したレース当日用のサプリですが、上記の理由からカフェインとカプサイシン(消化器官に優しい赤唐辛子抽出物を使用・脂質代謝を意識した適量)も成分として配合しています。

Catalyst Zone

即効で最高の集中・パフォーマンス状態であるZone(ゾーン)に入れるようにサポート。レースでの使用を想定し、全ての成分を即効性で合格点のものに厳選したエルゴジェニックエイド。カフェインとマンゴー葉エキスの相乗効果で強力覚醒。水素で疲労対策。

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スタート前30~45分くらいの糖質摂取は避ける方が安全

上記とは逆にスタート前に避けておいた方が無難なのが糖質を多く含む食品です。

1つめの理由はインスリンショックによる低血糖のリスクが生じるからです。

一般的に糖質を摂取すると高くなった血糖値を下げるためにインスリン(ホルモン)が分泌されて、インスリンに対する反応として血糖が筋肉に取り込まれて血糖値が低下し(元の水準に戻り)ます。

しかし、マラソンの30~45分前くらいにジェルなどを摂取して血糖値を上げてしまうと、インスリンの分泌が始まり、かつ運動による筋肉への血糖取り込み(これはインスリンとは別のメカニズムで働く)が重ねってしまうため、血糖値が下がりすぎてしまうリスクが生じます。

このようにして低血糖状態(集中力の低下、頭のクラクラなど)になってしまうことをインスリンショックといいます。

マラソンがスタートしてしまった後は交感神経が活発になりインスリンが分泌されないので、このようなインスリンショックのリスクはないので大丈夫です(走り始めてからは後述するようにきちんと糖質を摂取しましょう)。

スタート前の糖質摂取を避ける2つめの理由は「インスリンは脂肪分解抑制効果」があるためです。

インスリンは「食べ物が体に入ってきたから、栄養を体に取り込もう。余った栄養を体脂肪にして蓄えよう」という体の反応を起こします。

つまり、インスリン濃度が高いと体脂肪を分解してエネルギーにする速度が落ちてしまうのです。

すると、走るエネルギーの多くを糖質からまかなうことになり、ガス欠してしまうタイミングが早まります。

以上から、私はスタート前はできるだけ糖質は摂取しないようにしています。
(少量だけ飲み物に糖質が入っているとかは気にしないで大丈夫です)

マラソンレース中の補給はエネルギー(糖質)、水分、電解質の3つが大事

スタートしてからゴールまでの補給で大切なのは次の3つです。

  1. エネルギー補給:走って消費したエネルギーを補給しないとガス欠になりペースダウンしてしまいます
  2. 水分:発汗によって喪失した水分を補います。発汗量が多い大会では脱水症状のリスクがあり、逆に汗が少ないのに飲みすぎてしまうと水分過多によるストレスがありますので、適量を補給することが大切です。
  3. 電解質補給:汗と一緒に出た塩分(ナトリウム)などを摂取します。これも水分と同様に多すぎず、少なすぎず、適量を補給することが求められます。
    (電解質にはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、、、と色々ありますが、実践的には塩分がネックになりやすいので、塩分に注目していれば大丈夫だと思います)

フルマラソンレース中のエネルギー(糖質)補給のやり方

エネルギー補給はカロリー[kcal]ではなく、糖質の量[g]で考える

例えば同じ200kcalの補給食を食べたとして、その内訳が糖質100%なのか脂質100%なのかで体に入ってからの機能が変わります。

体の貯蔵量でネックになっているのは糖質なので、基本的には糖質の比率が高いことが補給食においては望ましいといえます。

よって、エネルギー補給を考えるにあたっては「何キロカロリーを摂取しよう」ではなく「糖質を何グラム摂取しよう」と考えるのが良いでしょう。

必要な糖質の摂取量の目安

レース中に摂取すべき糖質の量は下記の通り条件によって変わってきます。

  • 体重(体の重い人ほどエネルギーが必要)
  • 脂質代謝の能力(エネルギー源として糖質への依存度が少なく、体脂肪を使って走れる能力が高いほど糖質補給は少なくて済む)
  • ペース配分(高い心拍数で走るほど糖質は必要になる)

特に練習量豊富なトップアスリートと一般的な市民ランナーでは全く脂質代謝の能力(及びスタート時点でのグリコーゲン貯蔵量)が違うことは頭に入れておく必要があります。

トップアスリートの中にはエネルギー補給をほとんどしなくてもフルマラソンを走れてしまう人もいますが、同じことを市民ランナーがしてもガス欠で走れなくなってしまう可能性が高いと思います。

このように前提条件で違いがあることを踏まえたうえで、ザックリと市民ランナーの目安を紹介すると下記の表のようになります。

(表の値は私が理論的な計算を基にして独自に算出したものです)

体重[kg] 糖質補給[g]
40 97~118
50 121~148
60 146~177
70 170~207
80 194~236

エネルギー補給のタイミングの例

上記の表を参考にして、例えば体重60kgの人が150gの糖質をレース中に摂取しようとした場合は次のようになります。

距離[km] ジェル糖質[g] スポドリ糖質[g]
5
10 25 7
15 7
20 25 7
25 25 7
30 7
35 25 7
40 7
合計 149g

ジェルは1本25gの糖質が入ったもの。
スポドリはアクエリアスを150ml摂取(糖質で7g)と仮定して計算しました。

暑さやペースによって発汗量は変わるので、ドリンクの飲み方はあくまで目安です。

エネルギー補給はジェルを4つほど用意して、10,18,25,32kmくらいのタイミングで摂取するのが目安かと思います。

エネルギー補給用のジェルのおすすめは「自分の飲みやすいもの」

よくセミナーで「どのジェルがおすすめですか?」と聞かれることがあります。

商品によって成分は若干違うのですが、個人的にはその差は微々たるものだと思っています。

大切なことは「走って喪失した糖質を補給すること」です。
そして、それはほとんどのジェルで達成することができます。

軽さと飲みやすさの2つの観点で好みのものをみつけると良いでしょう

機能性を気にして味が好みでないものはストレスになります。

ストレスなく飲める自分の味覚的な好みにあったジェルが最もおすすめだと私は思います。

エイドの食べ物で補給でもOK

ジェルでなく、エイドステーションにあるバナナなどの食べ物でもエネルギーは補給することができます。

ジェルは走っていても摂取しやすいなどのメリットがありますが、無理に全てジェルだけにする必要はないということは覚えておいてください。

何を食べるかはエイドに何があるかによりますが、糖質の豊富な食品を選びましょう。
果物は糖質も多く、走っていても比較的食べやすいと思います。

ちなみにバナナは1本で約22gの糖質が入っています。

食べ物で糖質補給をするときも、事前に糖質の含有量を調べて定量的な補給を心がけることをお忘れなく。

フルマラソンレース中の水分補給と塩分補給のやり方

フルマラソンのレース中は水分と塩分を過不足なく補給していくことがポイントです。

走りながら下記のようなマトリクスを頭に思い浮かべると良いでしょう。

頭の中で水分と塩分のマトリクスをイメージし、自分がどの状態にあるのかを体の状態とそれまでにしてきた補給から推測します。

スタートからゴールまで中心にいられるよう心がけ、中心からズレたと感じたら戻るように修正します。

【状態の動き方】

  • 水分を補給するとマトリクスの上方へ
  • 塩分を補給するとマトリクスの右側へ
  • 発汗は左下へ、尿は(左)下へ

【自分がどの状態にいるのか推測する判断材料】

  • 水分過多だとトイレ(小)の量が増える。手がむくみやすい。
  • 水分不足だと唾液の出が悪くなる、トイレ(小)の量も減る。喉が渇く。
    脱水症状(後述)が出て、暑さへの耐性が減る(体温調整の機能が低下する)
  • 塩分不足は低ナトリウム血症の症状(後述)が起きる

▼脱水の症状

  • めまい
  • 頭痛
  • 吐き気
  • 筋肉痛
  • 集中力の低下
  • 体温や脈の上昇

▼低ナトリウム血症の症状

  • 運動能力の障害
  • 手足のむくみ
  • めまい
  • 嘔気、嘔吐
  • 頭痛
  • 意識が遠のく
  • 怒りっぽくなる、混乱する
  • けいれん
  • 尿が出なくなる
  • 眠気

下記によくある失敗事例を紹介します。
それを見ながらマトリクスの使い方をイメージしてみてください。

スタートで整列しているときやレース序盤で早くもトイレ(小)に行きたくなってしまう

これは、スタート前に飲みすぎてしまい「水分過多・塩分正常」のゾーンに入ってしまうことでよく起こります。

大会のスタート前は緊張によって唾液が出にくくなるので、それを「のどが渇いている(体が水を欲している)」と勘違いして飲みすぎてしまうことがあります。

この症状で悩んでいる人はスタート前の水分の飲みすぎを減らすようにすると解消すると思います。

スポーツドリンクで塩分が十分と勘違いして低ナトリウム血症になってしまう

一般的なスポーツドリンクは塩分濃度が1.0g/Lくらいです。

しかし、私の経験上(塩分補給の目安にも個人差はありますが)、2.3~2.5g/Lくらいだと発汗とちょうど釣り合うようになり、塩分不足や塩分過多の状態になりにくいと考えています。

よって、水分補給がスポーツドリンクだけで、それで塩分も足りていると勘違いすると、徐々に体の塩分が不足して(マトリクスでいう左側へズレていく)、低ナトリウム血症に陥り苦しい走りとなります。

スポーツドリンクだけでなく、塩分を含む補給食を食べるなどして調整する必要があります。

私は経口補水パウダー(エブリサポートやダブルエイドという商品)を使うことがありますが、これは1包で塩分1gとたっぷりとれるので塩分補給に活用しています。

携帯性が高い顆粒スティックですので、給水の時に口にそのまま入れてコップ1杯の水で流し込めば電解質を補給できます。
どれだけ汗をかくかによりますが、フルマラソンなら2,3袋あれば足りると思います。

同じような塩分補給用のサプリでも成分表示を見ると実はほとんど塩分が入っていない商品もあります。
塩分補給サプリを使用する方は必ず成分表示を確認してから使いましょう。
(私が使っている経口補水パウダーは1包で約1gの食塩相当量です)

低ナトリウム血症は特に発汗量の多くなるコンディションの大会で注意が必要です。

経口補水パウダーが飲みにくい人の代替案|塩分入りのジェルを使う

なお、ペースが速くなると顆粒の経口補水パウダーは「むせてしまう」「飲みにくい」と思われる方もいます。

そのときの代替案はこちらの記事で紹介しました。

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まとめ

  • スタート30分前のカフェインはパフォーマンスアップに役立つ(体質にあわない人を除く)
  • 脂質代謝が向上する成分は後半の失速予防におすすめ。ただし、当日使用するなら即効性の高い成分か確認する。
    カプサイシンはその点でおすすめの成分の1つ。
  • スタート前30~45分くらいの糖質摂取はインスリンショックや脂質代謝悪化のリスクがあるので避ける。
  • 表の数値を参考にして定量的な糖質補給を心がける
  • エネルギージェルはストレスなく飲めることを重視する。
    ジェルが苦手ならエイドのバナナなどの食べ物でもOK
  • 水分と塩分の補給は多すぎず、少なすぎずのバランスが大事。
    マトリクスをイメージして中心にい続けるように臨機応変に補給する。
  • スタート前の水分の摂りすぎは早々にトイレに行きたくなるリスクがある。
    喉が渇いたと感じるのは緊張して唾液が出ず、口が乾燥しているだけかもしれない。
  • 発汗量の多い大会ではスポーツドリンクだけでは塩分不足になる可能性がある。
    塩分を含む補給食や経口補水パウダーなどで塩分補給する。

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