今日は「ランニング中の疲れ」について、お客様からいただいた質問について一緒に考えていきましょう。
富士五湖ウルトラマラソン118km完走を目指しています。
小谷さんのyoutubeで補給について勉強させて頂いています。
お忙しい中恐縮ですが、質問をさせて下さい。長距離走(フルマラソン〜100km強)で補給を完璧に行えたとして、それでもいずれ限界を迎えてペースが落ちるのはなぜなのでしょうか?
長距離走のペースを決める生理学的要因が何なのか、疑問に思っています。万全の補給(糖質・水分・電解質をきちんと補給。胃腸障害予防にCAEも使用)を行った60km走終盤で足が棒になり、30分間ほど座って休憩した後になぜか復活し、足が軽くなってペースを戻せたという経験をしました。
あれは何が起きていたのか不思議に思っております。腹痛下痢など胃腸障害の兆候はありませんでしたか、腸管からの糖質吸収が追いつかなくなるのでしょうか、、、?
よろしくお願いいたします。
質問者の方と同じように走っているときに「この疲れは体の中で何が起こっているのだろう?」と疑問に感じたことのある方は珍しくないのではないでしょうか。
ペースが落ちる要因(=疲労)は様々な専門家が研究していますが、現状段階では「疲労の原因はこれ1つ」というような決定的な要因はなく、多くの要素が複合的に関係しあって疲労を形成していると考えられています。
状況によってボトルネックになりやすい疲労原因は変わりますので、状況に応じて「今回の疲労の原因はこれじゃないかな?」とあたりをつけて対策を練ることがポイントです。
60km走のような長い距離のケースでいうと
- エネルギー不足(糖質の枯渇)
- 電解質の不足
- 水分の不足(脱水)
の3点がまず第一に注意しなければいけない要因です。
今回の質問者さんの場合はその点は十分に理解されているようなので、上記3つが原因の可能性は低いでしょう。
また、質問の「糖質の吸収が追いつかないのか?」についてはCAE(消化サポートサプリ)を飲んで内臓トラブルもなかったようですし、今回のケースでは吸収ができなかったということはないと思います。
(個人差がありますが、一般的には糖質60~70g/hrまではOK。果糖・ブドウ糖比率を工夫したら90g/hrまでも吸収できるくらいです)
では、上記以外の疲れで何が考えられるか?
- 中枢性疲労
- 活性酸素
- 筋損傷
の3つを私なら疑います。
今回はこの中の中枢性疲労について少し詳しめに見ていきましょう。
中枢性疲労は脳が生み出す疲労
中枢性疲労は脳が体の酷使を予防するためのリミッターのような機能です。
もし人が疲労を感じずに際限なく走ってしまっては、関節を痛めたり、筋肉の損傷が著しくなってしまったりと危険です。
脳が疲労感を感じさせたり、筋肉への運動指令を減少させることで、体の消耗を予防する仕組みといえます。
中枢性疲労の存在は疲労困憊して筋出力が低下した人の筋肉に電気刺激を与えると、まだまだ元気に動く(筋出力が戻った)ことから明らかになりました。
被験者は自覚的には「筋肉が疲れて動かない」と感じていたのですが、実は脳からの運動神経を通じた筋肉への動作指令が弱まっていたのです。
体内の疲労物質を感知して中枢性疲労が発生する
中枢性疲労が発生する原因はまだ解明途中ですが、体内の何かしらの物質(直感的な言葉でいうと疲労物質)を脳が感知して、その量が増えると中枢性疲労が発生するという考えがあります。
疲労させたマウスの脳髄液を元気な別のマウスに移植したところ、そのマウスの運動量が低下した(疲労したと考えられる)という実験があります(なんて実験だ!)。
この実験から「脳髄液の中に疲労物質が蓄積され、それが原因で疲れるのではないか」という説があります。
中枢性疲労は心の状態とも関係
また、中枢性疲労は「ゴールを予感」したときにラストスパートができる(疲労感が吹き飛び元気が出る)のように心理的な面も影響します。
気分がネガティブなときは筋出力が低下することや、頭脳労働で頭が疲れると同じ強度の運動を継続できる時間が短くなる(疲れやすくなる)こともわかっています。
大会当日に移動の電車などでクロスワードパズルなどをすると、それだけで中枢性疲労の悪影響が出てくるので注意が必要です。
活性酸素はエネルギー産生を抑制
走るということは筋肉が収縮するために細胞でエネルギーを作り出すということです。
エネルギーを作る際、利用する酸素の2~5%は活性酸素という物質になります。
活性酸素自体は適量であれば免疫で利用されたり、トレーニングの適応を促すため悪いものではありません。
しかし、量が多すぎると病気、老化、疲労につながることが知られています。
活性酸素はミトコンドリアでエネルギーを作り出す化学反応に抑制的に働くことなどから運動時の疲労に関係することがわかっています。
ランニングはハードな運動に分類されるので、ランナーのみなさんは意識的に抗酸化物質を摂取するなどして対策すると良いでしょう。
筋損傷は筋の電気的性質を悪化させ筋出力が低下する
ランニングは筋損傷の大きいスポーツに分類されています。
着地の衝撃や筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する(エキセントリック収縮)の動作が多いためです。
ちょっと専門的ですが、細胞はその内部にカリウムが多く、外部にナトリウムが多いようなバランスになっています。
これによって筋肉に電位が生じ神経からの信号が伝わるようになります。
しかし、筋損傷を起こすと、細胞からカリウムが漏れ出し、かつナトリウムが侵入するので筋肉の電気的な性質が悪化して筋出力が低下してしまいます。
これが筋損傷による疲労のメカニズムの1つです(他にも色々な機序があります)。
対策としては距離が長くなるほど筋損傷の少ないダメージの少ない走り方が重要になってきます。
トレーニングではあえて起伏を使うなどして筋損傷に強い体作りをすることも役立つでしょう。
まとめ
今回は「生理学的要因が知りたい」とのことでしたので、理論的な話が多かったですが、実際のアクションとして大事なことをまとめると次のようになります。
- 補給としてまずは糖質・水分・電解質という基本をきちんと摂取する
- 中枢性疲労を予防するためにポジティブに、頭を使い過ぎないで走ること
- キツイ練習を消化することで「ここまで走れた」という自信がつき、それが中枢性疲労の予防につながる。
- 質問者さんのように「ちょっと休んだら復活した」ということがウルトラでは起こる。この経験をしっかり記憶に刻んで、レース当日の苦しい場面でも「今日も頑張れば復活できる」と信じぬくこと。
- 質問者さんの今回の復活の原因は30分の休憩で精神的にリフレッシュでき中枢性疲労が和らいだ。一時的に乱れていた血糖値、イオンバランスなどが休憩することで落ち着いて楽になった。という2つあたりが原因かなと私は直感的に思いました。
- 抗酸化物質はランナーにはおすすめ
- 筋損傷しにくい走り方、損傷しにくい強い筋肉を練習でつくっていく
4月からのウルトラに挑戦される他のみなさまも、納得の走りができますよう応援しています!
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