前回に続き、弘前24時間走での学びを今後のために記録していきます。
前回は水分と電解質の補給についてでした↓
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「塩分2.0g/Lでは薄い」弘前24時間走の水分補給でわかったこと
今日からは弘前24時間走のためにしてきた準備や当日の補給などで得た気づき(良かったことや失敗の発見)について整理しておこうと思います。 ちなみに、このブログでの弘前の記事(今回は文章というより主にライ ...
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今回は脂質代謝(体脂肪をエネルギーとして活用する能力)向上のための取り組みの成果について考えたいと思います。
なぜ脂質代謝の向上に取り組んでいるのか
私が弘前24時間走のために準備してきたことのうち、大きな比重を占めていたのが脂質代謝の向上です。
なぜかというと、ウルトラマラソンではいつも
- ガス欠になってきつい
- ガス欠を防ぐために食べ続けるのがきつい
と苦しめられていきたからです。
体を動かし続けるためのエネルギー源は糖質、脂質の2つがメインです。
24時間走という競技で考えたとき、体に貯蔵している脂質の量は十分ですが、糖質はほぼ必ず不足します。
経験上、脂質が十分にあっても糖質が枯渇していたら大幅なペースダウンを避けられませんでした。
少しでも糖質枯渇によるペースダウンのタイミングを遅らせるためにレース中の補給で糖質を摂取するのですが、食べながら走ることの胃腸への負担は大きく、食べ続けなくてはというプレッシャー自体がストレスでした。
そこでエネルギー源として糖質への依存度を減らし、より体脂肪を優先的にエネルギーとして利用できる体作りに取り組むようになっていきました。
どんな取り組みをしてきたのか
脂質代謝を向上させるために私がやってきたことは
- 練習:空腹ランニング(低エネルギー状態でのランニング)
- 食事:糖質制限
- エルゴジェニックエイド:Lカルニチン、HCA、カフェイン、カプサイシンなど脂質代謝のエビデンスのある成分を活用
でした。
空腹ランニング
人の体はあるストレスを受けたとき、そのストレスがまた来ても今度は対応できるように適応します。
(これがトレーニング効果であり、ストレスが強すぎてリカバリーを怠るとオーバートレーニングでマイナスの反応が起きる)
ウルトラマラソンで経験する「糖質が枯渇した状態で体を動かし続けなければいけない」というストレスに強くなるには、同様の状態を練習で反復経験すれば良いはずです。
そこで食事から間隔が空いて体内のエネルギーが低い状態で走る空腹ランニングを重要なポイント練習として位置付けてきました。
平日の練習は基本空腹状態で。
休日のロング走も空腹状態&エネルギー補給無しで走りました。
最終的には
「60kmくらいならエネルギー補給なしでジョグができて、練習後もお腹が空かないでその日は1日1食だけで大丈夫」
というくらいまで向上させました。
糖質制限
糖質制限とランニングを組み合わせることで脂質代謝をより強く向上できると考えられています。
(過去の私も含め、誤ったやり方で失敗する人も多い食事法なので、よく勉強されてから取り組まれることをおすすめします)
私は2018年の神宮外苑24時間走で255kmを走ったときは、糖質制限のおかげで快走できた経験があります。
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神宮外苑24時間チャレンジ2018|255km3位でした
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今回もそのときと同等のレベルの脂質代謝能力をもって大会に臨むために12月上旬(大会の6か月弱前)から糖質を制限した食事を継続しました。
以前は毎日糖質制限でしたが、家族ができた今は一緒に食事も楽しむ日として週1日の解禁日がある状態で始めました。
その後、4月に入ってからは週2日は糖質ありの日、週5日は糖質制限の日とミックス。
糖質を摂取した後の練習でスピード練習をして、速さと持久力の両方を鍛えることを試してみました。
この5:2の取組みは継続して2か月くらいですが調子は良い感じ。
これからもしばらく継続してその可能性を探求したい食事方法だと思っています。
エルゴジェニックエイド
「足りない栄養素を補う」というサプリメントに対して「運動能力の向上が期待できる成分を含むもの」をエルゴジェニックエイドといいます。
(日本ではどちらもサプリメントというくくりで語られることが多いですが)
例えば有名なエルゴジェニックエイドにはカフェイン、クレアチンなどがあります。
エルゴジェニックエイドの中には脂質代謝を向上させるというエビデンスのあるものも多いので、その中から良さそうなものをブレンドして摂取しました。
私はエルゴジェニックエイドを自分で作れるので(それが仕事なので)日常的に摂取するものとしては即効性は低くても蓄積して効果が積みあがるようなLカルニチン、HCA、ブラックジンジャーをブレンドしたCatalyst Cardio Performanceを。
レース当日は即効性の強いカフェイン、カプサイシンなどを入れたCatalyst Zone(企画中の新商品の試作品)を摂取しました。
(Zoneは脂質代謝だけでなく、中枢性疲労や抗酸化など他の狙いもあるエルゴジェニックエイドです)
9時間(106km)まで23g/hrの糖質補給でも筋グリコーゲンに余裕をもって通過できた
上記の取組みをした結果、脂質代謝のレベルはどれくらいに達したのか?
弘前では途中でねん挫でリタイアしてしまったので、完全な判断はできないのですが、少なくとも途中経過の部分だけでも十分な効果があった=取り組みの方向性は間違っていなかったと私は考えています。
参考にしたのは「どんなペースで走って、どれくらいの糖質を摂取して、その結果ガス欠の失速はあったのか? 翌日以降のダメージはどうか?」という問いに答えることでした。
弘前で9時間(106km)まで走ったときに摂取した糖質を計算したところ23~25g/hrであることがわかりました。
本当は35g/hrくらいを目安にしていたのですが、6時間半~8時間の低ナトリウム血症&脱水でその間の糖質摂取がほぼ無かったことと、暑さでたくさん飲んでいたため胃腸の負担を減らすために糖質補給を意図的に抑えた結果、この量でした。
23~25g/hrで106kmを通過するのは普通からしたらかなり少ないのですが、それでもガス欠による失速や低血糖の症状はありませんでした。
また、レース後の異常な食欲増進もなく、筋肉へのダメージ(ガス欠で長く走ると残りやすい)も小さかったです。
以上から、106km通過の段階でも筋グリコーゲンをまだ十分に温存できていたと考えられます。
脂質代謝アップの取組みがきちんと効果があったことを裏付けていると判断しました。
次回の24時間走への挑戦でも同様な方法・準備期間で高い脂質代謝能力を築けるとうことをここに記録しておきたいと思います。
これからの方針
今回の弘前ではその時間帯まで走ることができませんでしたが、24時間走の後半から「食べないでもある程度走れる」というアドバンデージは強力です。
今後も24時間走に挑戦するときは脂質代謝を重要なキーワードとして強化していきたいと思います。
一方で糖質制限をするとスピード練習の質が低下しやすくなるというデメリットもあります。
より高い記録を目指すなら高い心肺機能、LT値、それに適した走り方を身につけることも必要と痛感しています。
6~12月くらいはハーフマラソンなどに焦点をあてて速さを強化。
1~5月はウルトラに向けて速さをできるだけ維持しながら脂質代謝を強化。
というように、年間プログラムを組んでいくのは1つの手かと思いました。
また、週2日の糖質食、週5日の糖質制限食のミックスは今回初めて試して2か月継続しましたが、ある程度集中してスピード練習ができます。
この方法をもっと継続したらどのように体が変わっていくのかも探求してみたいと思います。