この記事ではウルトラマラソンのレース中の辛い場面でも心が折れないようなメンタル対策について考えたいと思います。
ウルトラマラソンの難しいところの1つに、長時間の間に何度も「楽をしたい」「解放されたい」というように揺れ動く心をコントロールすること。
後悔なくレースをおえられるように、ぜひ本記事の内容をご参考にしてください。
疲労感の原因は脳にあり。過保護な脳に「まだ大丈夫だよ」と納得させること
具体的なノウハウの話に入る前に、一つ面白い実験を紹介したいと思います。
疲労感と脳の関係性を調べた実験について。
ある実験でサイクリストにバイクを限界までこがせました。
そして、「もうこれ以上こげない」という時点での筋繊維の利用状態を調べます。
それまでの有力な説であれば
「疲労困憊(こんぱい)状態であれば使えうる全ての資源を使い切っているはず
=ほぼ全ての筋繊維が動員されている」
と考えられていました。
しかし、実際には疲労困憊時に使っていた筋繊維は全体のわずか50%以下でした。
実は筋肉にはまだ余力がたっぷりあり、脳から運動の指令が来て使用されるのを待っている状態だったのです。
この実験をしたスポーツ生理学者のティム・ノークス氏は
「疲労感というのは脳により中枢的に強いられたものだ」
と語っています。
つまり、疲労は身体の致命的な損傷を避けるために脳が作り出す感覚ということです。
(脳が安全のために筋繊維のスイッチを切ってしまう)
ウルトラマラソンを走った多くの方は心の持ちようで疲労感、キツさが大きく変わることを知っているます。
例えば、ついさっきまで辛かったのに、誰か知り合いとすれ違って声を掛け合うことで一瞬で元気になったり。
ウルトラマラソンでは過保護な脳を「まだ大丈夫だよ」といかに説得するかが重要といえます。
*本当に身体を壊したり人に迷惑をかけるような無理を推奨しているわけではありません
*この後に紹介することもみなさんの良心に従って、後悔しないレースをするためにお役立てください
目標不在は危険 適切な目標設定が人を動かす
まず、以前私が参加したある12時間走での学びを紹介します。
下のグラフはその大会でのラップタイムの推移です。
横軸=距離、縦軸=タイム、1周1.1km
このレースについて過去の記事で下記のように話していました。
85kmくらいからペースが上がっているのがわかりますが、この時何があったのか?
実は途中経過をみて私が2番手でトップと5周差であることがわかったのです。
「ペースアップしたら1位も狙えるかもしれない」
「終盤にペースアップして気持ちよく走り終えられたら、来月の本命レースにも良い状態でつなげられそう」
と思いました。過去の24時間走も終盤は当然キツいのですが、ゆっくり走れば必ずしも楽というわけではありませんでした。
ライバルと競り合ったり、追い抜いていくランナーについてみたりすると意外とペースが上がったのに主観的な疲労感も楽になるのです。
自分の下向きな気分がキツさを助長しているということはよくあります。
そういった経験もあったので、残り4時間くらいのところでペースアップをしてみました。
すると「1位」とか「次の大会に向けて」という目標から、みるみる心と体が軽くなっていくのを感じました。
肉体的には一番疲れているはずなのに、最後の4時間が一番気分的にも楽でした。
気持ちの切り替えが大成功した例です。
以前、社員の川尻君と宮古島ワイドーマラソン(100km)の反省会を行った際にも同じような内容の話をしました。
川尻はサブ10を目標としていましたが、「途中で達成するのが難しいと判断して気持ちの切り替えが出来なかった」ということを話してくれました。
対処法としては「一つ下の目標をすぐに用意して、その目標に向けて没頭する」ということでした。
気持ちの切り替え(目標をみつける)には例えばこんな風な例もあります。
- まず次の電柱まで、次のエイドまでは走ろう
- 次の10kmは復活のための10kmにしよう。そのためにこの10kmはペースを落としてしっかり補給を摂ろう
- (記録はダメでも)辛くても礼儀正しくふるまえる自分であろう。
エイドのボランティアの方にしっかりと感謝の気持ちを伝えるようにしよう。
目標不在の状態だと気持ちが折れやすくなると思います。
ゴールまで先が長いときはその都度、適切な目標を定めて没頭すると身も心も軽やかになることがあるということだと思いました。
何かと比較して「・・・だからきっと大丈夫」と自分を納得安心させる
ウルトラマラソンを走っていると「ゴールまでちゃんと行けるかな?」と不安に思う瞬間が何度か訪れます。
この不安に耐えきれないとリタイアのリスクが高くなります。
こんな時に「いや、きっと大丈夫だ」と自分を納得させて乗り越えるのには「比較」の考えが役に立ちます。
以下はあるレースの記事からの引用です。
実は今回の私は「1回で長い距離を走る」というのが久しぶりで少し不安があったのです。
夏は暑くて集中できないので、まとめて長い距離を走りませんでした(朝夜で16kmずつみたいな練習が多かった)。
そんな時に私を落ち着かせてくれたのが過去に成功した時との比較です。
具体的には今回の大会では
「2年前は月間350kmくらいの練習で24時間240km走れたじゃないか。
今年は月間の練習量でいえばもっと走り込んでいるんだから体は十分にできている!
だから、きっとこのままゴールまで行ける!」
と考えていました。文章にしてしまうと、当然のようなことに聞こえてしまうかもしれません。
ただ、実際に疲れてきたり、ストレスに長時間さらされているレース中では意外とこういう考えができません。
普段から「辛くなったらそれを乗り越えた経験と比較するなどして安心させる」という考え方のクセを身につけたいものです。
こういう比較は色々とバリエーションがあります。
友人と比較して「〇〇さんが、これくらいの練習量、フルマラソンの記録でウルトラを走れたのだから、自分もいけるはず」
練習と比較して「練習で〇〇km地点までは走れたのだから、少なくともそこまでは行けるはず」
など。
まとめると、「不安は大敵であり、それをやわらげるのに何かと比較する方法が役に立つ」ということです。
スタートする前から自分を安心させる比較材料(過去の記録、友人、練習)を用意して、ピンチの時に思い出せるようにしておくと良いでしょう。
弱気になるのは血糖値が低いからかも(糖質をしっかり摂取する)
走っている時に強気でドンドン走れるときと、弱気になって落ち込んでしまうときがありませんか?
ウルトラマラソンのような長時間に及ぶレースではどうしても弱気の波がくることは仕方ありません。
ただ、弱気のときはペースダウンしてしまいますし、リタイアリスクも高くなりますから、できるだけその時間を短くしたいもの。
実はこの強気弱気という気分に血糖値が関係しています。
こちらの記事は以前100kmをエネルギー補給無しで走った時のものです。
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このときは実験で、走りながら10km毎に血糖値を測りました。
血糖値の推移データを見ると「血糖値と心には相関関係がある」ということに気づきました。
「ちょっとお腹がすいてきた」
「今日の練習、きちんと最後まで行けるかな?」
「こんな練習ではオーバーワークにならないかな?(早めに切り上げたい気持ちに)」
のような、ネガティブな思考出てきたタイミングが、見事に血糖値の低いところに一致したのです。
実際に低血糖のいくつかある症状の1つに「不安感」が知られています。
つまり、糖質は走るためのエネルギーとしても重要ですが、心の余裕度にも関わってきます。
もしレース中に不安にかられて、それが低血糖が原因だったとしたら
- 補給で血糖値を上げる
- ライバルなどがいたら密かに闘争心を燃やす
(闘争ホルモンの影響で血糖値が上がる) - 叫んで気合を入れる
(周りの迷惑にはならないように)
などの工夫で改善する可能性があります。
まとめ
- 疲労感の原因は脳にあり。メンタル面の対策が上達すれば主観的にも楽に走れてリタイアリスクは軽減できる。
- 目標不在は危険。遠い先のゴールのことは考え過ぎず、まずは目の前のもっと身近な目標に集中する。
- 「自分はゴールできるんだ。なぜなら・・・だから」と自分を納得させる安心材料を用意しておく。
その際は比較が役に立つ(過去の自分、友人、練習)など。 - 低血糖は不安を呼ぶ。特にウルトラはエネルギー枯渇からの低血糖になりやすいのでしっかりと糖質補給をする。
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