ウルトラマラソン

24時間走のペース配分|世界のトップ選手はどう24時間を走っているのか?

2019年11月6日

24時間走のペース配分について面白いデータがあったので紹介しようと思います。
このデータはアメリカの24時間走チームの Facebook に投稿されていました。

まずはこちらのグラフをご覧ください。

And then we add Olivier Leblond....
This is the same pacing chart previously shared with Alexander Sania Sorokin and...

U.S. National 24 Hour Running Teamさんの投稿 2019年10月31日木曜日

横軸は時間、縦軸は距離(マイル)。
このデータは選手が170マイル(273.7 km) の平均ペースに対してどれだけの貯金を作って走ったかを示しています。

例えば青色の実線を見てください。
これは先日の24時間走世界選手権で優勝して女子の世界記録を更新したHERRON Camille選手のデータです。
開始時点から8時間ぐらいまでグラフは右上がりになっています。
これは24時間で170マイルを走る平均ペース(5:16/km)より速いペースで走っている=貯金を作っていることを示しています。

8時間を超えたところで線は横軸に平行となってきます。
これは5:16/kmくらいのペースで彼女が進行していることを示しています。

15時間頃からグラフが右下がりになっています。
これは5:16/kmより遅い(170マイルに対して貯金を使っている)ということです。

特に15,18時間あたりでは ガクッと右肩下がりになって貯金を使っているのがわかります。
レース中何度か彼女がテントに入って苦しんでいた時間があったようですが、それがこの時間帯に当たるのでしょう。
それでも復活して走り続けた彼女の姿が想像されます。

赤の実線は男子で優勝したSOROKIN Aleksandr選手のデータです。
17時間ぐらいでガクッと落ちる場面がありますが、それが長引いて大崩れすることはなく19時間で盛り返しています。
終始順調に走っているように見えた彼ですが、やはり彼も苦しい時間帯を耐えて優勝を勝ち取ったのですね。

さて興味深いのは黄色の実線=世界選手権で男子3位になったLEBLOND Olivier選手のデータです。
グラフを見てわかるように彼は170マイルに対して大きな貯金を作ることなくイーブンペースに近いペースで走っています。
24時間走でこの走りは驚くべき走りです。
(少なくとも私なら記録度外視でゆっくりペースで走ってもイーブンはキツいと思います)

24時間走の最適なペース配分はまだよくわかっていません。
そもそも「ペース配分を決めるための考え方がわからない」と言っても良いかもしれません。

現在の日本人トップ選手である石川佳彦選手は比較的後半型で、LEBLOND Olivier選手のように安定して走っている印象があります。
去年の神宮外苑24時間走で優勝した高橋伸幸選手も日本のトップ選手ですが後半タイプの選手です(驚くことに後半の方が速かった笑)。

このように今の日本人トップ選手のペース配分を見ると、前半ゆっくり入って後半のペースダウンが少ない走りが人気のようです。

ただ、私個人としては前半から突っ込むのと後半に体力を温存するのとどちらが良いのかはわかりません。
(どちらでもそれなりの成功体験がある)

どちらの走り方をするにしても、レース中はそれぞれに生じる「不安・恐怖」に勝利する必要があります。

前半タイプで走るなら「終盤に大崩れしないか」が不安になるでしょう。
潰れるリスクが高いので、そこから復活する強さも求められます。
(24時間走くらいの長さなら一度潰れても復活する力があれば戦えます)

後半タイプで走るなら「貯金が作りたい」「一度潰れたら終わる(or終盤ペースアップしないといけなくなる)」「最後までライバルに追いつけないのではないか」というような不安と戦うことになります。

あなたならどちらの不安に対してなら打ち勝つことができるでしょうか?
ウルトラマラソンはメンタルの面が大きいので、あなたの性格に合わせてペース配分を選ぶというのも一つの方法かもしれません。
つまり先述したような不安について「どちらの不安の方がストレスに感じにくいか」という視点でペース配分を決めるということです。

フルマラソンのペース配分については代謝やエネルギー効率性という側面から判断するという考え方ができます。
これは測定することができるので簡単です(あるいは「解明した気がする」という表現の方が適切かもしれませんが)。

しかしウルトラマラソンは「心」という分析しにくいものの影響が大きいです。
エネルギー効率的には効率的なペース配分で走っても、心の持ち方一つで一気に崩れてしまってもおかしくはありません。
心という不確かなものを扱わなければならない。
これがウルトラマラソンの難しさであり、奥深さでもあるのではないかと私は思いました。

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