先日のパーソナル栄養指導であった事例のご紹介です。
Aさんはフルマラソンの自己ベストが3:14のランナー。
今年の11,12月(4,5か月後)にフルマラソンにエントリーしており、そこでサブ3を達成するのが目標とのこと。
その目標達成に向けて
- ランニングと生活のパフォーマンスアップのために食事の内容やタイミングで改善できるところはあるか?
- 現状は健康ではあるが、食後の眠気、ときどき生じる疲労感に課題を感じている。
との思いがあってこの度パーソナル栄養指導をご受講されました。
現在の食事ではゆるい糖質制限を意識しているそうです(3~4年くらい継続中)。
ゆるい糖質制限に落ち着いたのは
- 理論的に低糖質の食事の良さに納得するところがあった
- 昔は糖質をたくさん食べていて、そのころと比べるとゆるい糖質制限を意識してから健康状態が良くなったという経験
が理由だそうです。
Aさんの現在の食事概要(メールから抜粋)
朝食
プロテイン・豆乳・バナナ・クエン酸・オリゴ糖などをジューサーに混ぜて飲む+果物やヨーグルトを頂くことも昼食
野菜、鶏肉、ナッツメインのサラダボウルのみ
※休みの日はおかず、汁物を頂き、白米は無しか少量夕食
子供達も含めて家族皆でご飯、汁物、おかず等の普通の食事
※仕事で遅くなる火曜、木曜はプロテイン・豆乳のみで終わらせる体調
- 基本的には良好ですが、たまに走りたくない日があったり、強度の高い練習を予定していた日にコンディション不良を感じてジョグに切り替えたりします。
- 昼食後の仮眠を20分以内で終わらせるつもりが眠かったりだるかったりして惰眠となり1時間近く寝てしまうことも。
- 仕事後に急に疲労を感じて職場で寝てしまい、帰宅が午前様となり就寝時間が遅くなり翌朝の起床時間が遅くなりランニングができない日はガックリです。
Aさんと対話しながら私の中に浮かんだ考えは
ゆるい糖質制限が「パフォーマンスの谷」のゾーンに落ちてしまっている可能性はないか
ということでした。
記録を目指しているランナーが糖質を減らした食事をする主な理由としては
- 体重を落とす
- 体脂肪をエネルギーとして使いやすい体質にする(ガス欠のリスクが減って後半の失速予防になる)
の2つです。
この時に注意しないといけないのが、主に後者の脂肪燃焼能力を向上させたいとき、中途半端な糖質制限をするとかえってパフォーマンスが落ちてしまうということです。
しっかりとした糖質制限ができていると、体を動かすときに糖質が常に枯渇しているので体脂肪を燃やさざるをえません。
すると、体内でケトン体という物質を体脂肪から作り、そのケトン体をエネルギーとして活用する回路が発達していきます。
(ケトン体については下記の記事で解説しています)
-
ケトン体とマラソン|70kmエネルギー補給無しで走れた理由
(2021.7.10追記を文章の最後に入れています) 「1週間とかの短期間の糖質制限でも持久力アップに役立ちますか?」 というような質問をここ数日で何件かいただいています。 回答としては 「短期間では ...
続きを見る
しかし、もし糖質の減らし方が中途半端だと「なんとか糖質は使えるけど、糖質が少なくて力が湧いてこない」という状態になります。
この場合はケトン体を活用する回路の開発があまり進まず、ただのエネルギー不足な人の状態です。
そして、そういう人が元気になってトレーニングもしっかり消化するにはエネルギー源としての糖質をもっとしっかりと食べることです。
つまり、ゆるい糖質制限で上手くいっていないと感じたら
- 糖質をもっとしっかり制限してケトン体を使える体質になる
- 糖質をもっとしっかり摂取してエネルギーの満ちた元気な状態になる
の2つの選択肢があるということです。
このどちらにも振り切れていない調子が上がりきっていない状態を私は「パフォーマンスの谷」と呼んでいます。
グラフにするとこんな感じです。
横軸に糖質の量(PFCバランスのC)、縦軸にパフォーマンスとします。
PFCバランスとは
PFCバランスとは食事で摂取したカロリーのうちタンパク質(P)、脂質(F)、炭水化物(C)がそれぞれ何パーセントかの比率を表したものです。
例えば牛丼チェーン店のすき家の牛丼並盛の場合、
タンパク質:23g
脂質:25g
炭水化物:104g
合計カロリー:733kcal
です。
タンパク質と炭水化物は1gあたり4kcal、脂質は1gあたり9kcalです。
(厳密には炭水化物=糖質+食物繊維で、糖質が1gあたり4kcal)
よってPFCバランス(カロリー比)は
タンパク質(P):脂質(F):炭水化物(C)
=23×4:25×9:104×4
=92:225:416
=12.6:30.1:57.3
となります。
糖質をガッツリ減らしたら大成功(左の青い丸)。
マフェトン成功(右の青い丸)というのは運動生理学者のマフェトン氏が提案しているもの。
PFCバランスでいうとC=40くらいが目安(個人差あり)で、一般的な人のC=55~60よりは低糖質ですが、エネルギー不足にならない程度に糖質も摂取するという感じです。
ゆるい糖質制限を意識した人がハマってしまうリスクがあるのが両者の間の赤い丸のゾーン。
ケトン体質にもならないしエネルギーは枯渇しているという状態ですね。
今回のパーソナル指導ではAさんがこの谷のあたりにいる可能性を検討しました。
多少思い当たるところもあったようで、マフェトン成功ゾーンに近づけるために糖質を今より多めにとるとAさんはおっしゃっていました。
ゆるい糖質制限を実施していて、あまり調子が上がってこないという方は上記を参考にして
- 糖質をもっとガッツリ減らす
- エネルギー不足感をなくして、しっかり練習ができるように糖質の摂取を少し増やす
を試してみると良いかもしれません。
Holosのパーソナル栄養指導ではこのようにお客様の現状をヒアリングして一緒に改善策を探していきます。
「こうなりたい」という目標のある方や体調面で課題意識のある方はぜひ気軽にご相談ください。
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