食事・サプリ・栄養学

マラソンの失速の原因、実は脳の疲労が〇%

2023年8月26日

今日からのブログでは中枢性疲労(脳が原因の疲労)とマラソンの関係について考えていきたいと思います。

中枢性疲労について理解し、対策をすることで、走りのパフォーマンスを上げられる可能性がありますよ。

最初にクイズを1つ。

楽なペースで2時間のジョギングを行いました。

ジョギングをする前と後で脚の筋力を測定したところ、ジョギング後では疲労によって60%まで筋力が落ちてしまいました。
(例えば、運動前は100kgのウェイトを上げられたのに、運動後では60kgしか上げられなかったということ)

この筋力低下の原因を「筋肉の疲労」と「脳の疲労」の2つに分類できたとしたら、それぞれの比率は何パーセントになるでしょうか?

みなさんそれぞれ感じ方が違うと思いますが、昔の私なら

筋肉の損傷などによる筋疲労=80~90%
脳の疲労=10~20%

くらいだと回答していたのではないかと思います。

マラソンで疲れたときは「脚の筋肉が動かない」「脚が売切れた」という感じがして、とにかく筋肉が損傷しているという印象が強かったからです。

さて、このクイズの答えを考えるためにある研究を1つご紹介します。

『Central Fatigue after Cycling Evaluated Using Peripheral Magnetic Stimulation』
KREMENIC, IAN

この研究では被験者に66%VO2maxの強度(「楽である」と「ややきつい」の間くらいの強度)で2時間、自転車をこいでもらいました。

自転車こぎの前後で大腿四頭筋の筋力を測定するのですが、このとき
①自力で筋力を発揮
②機械を使って電気刺激を筋肉に与えて筋力を発揮
という2つの筋力を測定しました。

筋肉が動くときは

  1. 脳からの「動け」という運動指令(電気信号)が運動神経を通じて筋肉へ
  2. 筋肉が指令を受けて収縮

というプロセスがあります。

もし脳が疲れていたら、脳からの運動指令が弱くなり、そのため筋肉の力も弱くなります。

ということは、仮に脳の運動指令が弱っているときに機械を使って外部から脳と同じような運動指令を与えてやれば、筋力を復活させることができるはずです。

そして、外部からの運動指令の有無で筋力がどれくらい変わるのかを測定したら、脳が原因の疲労がどれくらい影響しているのかが分かるということになります。

実験の結果を表したのが下のグラフです。

【グラフの見方】
縦軸:発揮した筋力
横軸:時間

実線:疲労前のデータ
点線:疲労後のデータ

実線、点線ともに3.5秒くらいで発揮筋力が上がっていますが、このタイミングで機械を使った運動指令が筋肉に与えられました。

【考察】
機械を使わない場合、2時間の自転車こぎの影響で筋力は60%まで減少しました(①)。

しかし、機械で外部から運動指令を与えた場合を比較すると、減少幅は86%と僅かです。

この100%-86%=14%の筋力低下は、運動指令の強さと関係しないので、脳ではなく筋肉の方に原因がある疲労と考えられます(②)。

さて、①で100%-60%=40%の筋力低下が観察されましたが、②より14%は筋肉が原因と考えて良いでしょう。

すると、残りの26%(=40%-14%)の筋力低下は運動指令が弱くなったことが原因と考えられます。

筋肉が原因=14%
脳が原因=26%

つまり、この実験での筋力低下の100%中の65%は脳が原因だったということです。

この値は多くの方にとって直感に反するのではないでしょうか。

厳密には比率は運動の種類、時間、強度、被験者の体力水準によって変わってきます。

(ランニングは自転車よりも筋損傷が大きいので、筋肉が原因となる比率が少しは高くなると思います)

ただ、私たちが「筋肉のダメージで走れない」と思っているときも、実は筋肉はまだ余裕があり、脳からの「動け!」という指令を待っているだけなのかもしれません。

そして、もしそうであれば「脳の疲労を予防するにはどんな練習や補給をしたら良いのだろう」とアプローチを変えることで、新しい領域に踏み入れるチャンスとなるのではないでしょうか。

中枢性疲労には「暑いとその影響が大きくなる」というデータもあります。

『Hyperthermia and central fatigue during prolonged exercise in humans』
Lars Nybo, and Bodil Nielsen

この研究では、被験者は50分間、楽なペース(60%VO2max)で自転車をこぎました。
自転車こぎの前後で筋力をテスト。
(先述の研究と同様に中枢性疲労のインパクトを測定するために電気刺激も行った)

暑さの影響を分析するために、片方のグループは暑熱環境(40度)で運動しました。

結果は通常環境では80~85%の筋力低下が見られましたが、暑熱環境では50~60%と大幅に低下しました。

つまり、暑い大会ほど中枢性疲労への対策の重要度が高まるといえます。

暑い季節の練習を充実させるのにも中枢性疲労対策は役立つといえるでしょう。

今日のまとめ

  • 中枢性疲労とは、脳の疲労。脳から筋肉への運動指令が弱まることでスポーツのパフォーマンスも低下してしまう
  • 中枢性疲労の影響の大きさは条件によって変化する。マラソンにおいてはパフォーマンス低下の半分以上を占めている可能性もあり、対策の伸びしろが大きい
  • 暑いと中枢性疲労の影響が大きくなる

次回からは中枢性疲労を引き起こすメカニズムについて解説し、疲労を軽減するためのヒントを探っていきたいと思います。

次回
中枢性疲労その2|中枢性疲労の原因を理解する

今日は中枢性疲労(脳が生み出す疲労感)について、前回の続きの情報提供をしていきたいと思います。 前回の内容はこちらのブログに掲載しています。 中枢性疲労はマラソンのパフォーマンス低下の半分近くを占めて ...

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