今日は活性酸素が老化と運動能力にどのように関係しているのかを考えていきたいと思います。
ところで、あなたは活性酸素にどのようなイメージを持っているでしょうか?
「体に悪いと聞いたことがある」
「日焼けや運動をすると発生する」
「抗酸化物質という栄養素を摂るのが大事」
などが一般的なイメージかもしれません。
今回は活性酸素について現在の科学で考えられていることを整理して、活性酸素を過度に恐れすぎることなく、上手に付き合っていけるようにしたいと思います。
そのためには、次の問いについて順を追って理解していくのが良いと思います。
- そもそも、活性酸素とはどんな物質なのか?
- 活性酸素は体にどのように作用して、どのような影響があると考えられているのか?
- 人には活性酸素へ対抗する能力は備わっていないのか? その能力だけで十分対処できないのか?
- 活性酸素の害が大きい人はどんな人か? その人はどのように対策をすれば良いか?
- 抗酸化物質にはたくさんの種類があるようだが、その違いは何なのか?
- 抗酸化物質を摂取することで体を甘やかしてしまい、逆にトレーニングの効果が減る可能性はないか?
活性酸素とは
活性酸素は水や酸素から生成される反応性が高い分子です。
具体的にはヒドロキシラジカル、スーパーオキサイド、一重項酸素、過酸化水素の4つがあります。
活性酸素の特徴として「他の分子から電子を奪って変形させてしまう」という作用があります。
ちょっと化学の言葉を復習すると
私たちの体の細胞は分子が集まってできています。
その分子は原子が結びついてできています。
その原子は中心部に原子核があり、その周りを電子が回っているような構造をしていると考えます。
つまり、活性酸素によって電子が奪われてしまうと、奪われたその分子は形が変わって本来とは別のものになってしまうということです。
(完成したブロックからピースを抜き取ってしまうと少しずつ形が崩れて壊れてしまうイメージですね)
活性酸素の標的になり壊されてしまうものにはどんなものがあるのか?
例えばその1つが細胞膜。細胞膜とは細胞の外側の輪郭部分。
細胞を包み込んで他の細胞と区別する境界線です。
細胞膜には細胞に必要なものを外から取り入れたり、逆に不要なものを細胞の外へ排出したりする機能もあります。
細胞が活動するためには栄養素や酸素を取り込まないといけませんが、それも細胞膜にある輸送用トンネルが働くことで実現しています。
細胞膜は単なる細胞の区切りではなく、細胞が生きていくために欠かせない存在です。
このように大事な細胞膜ですが化学的に酸化されやすいという特徴があります。
そのため活性酸素の害を受けやすい組織の1つです。
細胞膜が活性酸素で傷ついて機能が低下することを人に例えると「食べ物を吸収したり老廃物を排出する胃腸や腎臓が機能しなくなる」ようなものです。
当然そんな人が長く生きていけないように、活性酸素のダメージが蓄積するにしたがって細胞は全体的な機能が低下してやがて細胞死を迎えます。
ちなみに細胞の中にあるミトコンドリアのような器官(細胞小器官という)も同じような膜で包まれています。
よって活性酸素でミトコンドリアも老朽化してしまうのでエネルギーを作り出す能力が低下してしまいます。
細胞膜以外では例えばDNA、アミノ酸とタンパク質、神経伝達物質なども活性酸素の標的になります。
活性酸素はDNA(鎖のような構造をしている)を切断したり、修飾(そのDNAが機能するかしないかを決定するスイッチのようなもの)のオン・オフを勝手に操作したりすることで正常な働きを阻害します。
例えばガンを抑制するDNAが損傷すればガンになりやすくなりますし、ミトコンドリアのDNAが損傷するとアルツハイマーが引き起こされるとも言われています。
こう書くと活性酸素が怖いもののように思えてきますが、当然こんな危険因子に負けないように人は進化してきました。
大事なのは不必要な活性酸素の発生を抑え、体の活性酸素への適応力を高めること。
そして「活性酸素の害<活性酸素を抑制する働き」となるように生活習慣をコントロールしていくことです。
ではそのために、活性酸素がどんなときに発生するのかをみてみましょう。
活性酸素が発生する原因
活性酸素が発生する原因として、下記のようなケースがあります。
- ミトコンドリアでエネルギーを作るとき
- 紫外線をあびたとき
- 炎症反応が起きたとき
- 病気などで免疫が働くとき
- 農薬や添加物・汚染物質・医薬品
- 精神的なストレスを受けたとき
生きる上で仕方のない原因。ミトコンドリアでエネルギーを作るとき
細胞が活動するエネルギーは細胞内のミトコンドリアという器官で作られます。
ミトコンドリアでは食べ物から取り入れた栄養素と呼吸で吸った酸素が化学反応を起こしてATP(アデノシン三リン酸)という細胞が使いやすい形のエネルギーになります。
このATPを作る化学反応の過程で一定割合の酸素が活性酸素になってしまいます。
ATPは私たちが生きるためには絶対に必要なので、それを作る過程で発生する活性酸素は避けることができません。
また運動中は筋肉が多くのエネルギーを必要とするので、発生する活性酸素の量も多くなります。
生活改善で軽減したい原因
ミトコンドリアでエネルギーを作る際の活性酸素は不可避であるのに対して、生活習慣で軽減できる活性酸素もあります。
紫外線が肌にあたると、肌の細胞が炎症をおこして活性酸素が発生します。
炎症とは体内に入ってきた異物に対して体がそれを除去しようとする防御反応のことです。
例えば筋肉痛は炎症ですが、それはトレーニングによって損傷した細胞を異物とみなして除去しようとする反応です(かつては自己とみなしていた筋細胞を損傷して使えなくなったため非自己とみなすということ)。
花粉症も体内に入った花粉という異物を除去しようという炎症反応です。
細菌やウイルスの侵入も異物ですから炎症がおきます。
農薬や添加物を含む食品、医薬品なども異物とみなされて炎症がおきることがあります。
炎症がおきると、その異物を除去しようとして免疫細胞(白血球)が出動します。
一部の白血球は異物に対して活性酸素を武器として使用します。
これが炎症がおきると活性酸素が発生するメカニズムです。
先述のミトコンドリアでエネルギーを作るときに発生する活性酸素は仕方がない(生きる上で不可避)ですが、炎症反応による活性酸素は生活習慣の改善によって減らしていきたいものといえます。
また、炎症とは違いますが精神的なストレスも活性酸素を発生させます。
ストレスを感じたときに副腎皮質ホルモン(コルチゾールなど)が分泌されるのですが、これを生成するとき、不要になって分解するときの両方の反応で活性酸素が生じるからです。
ストレスが体に悪いということは皆さん直感的にも理解していると思いますが、その理由の1つとして活性酸素も関係しているのですね。
今日のまとめ
- 活性酸素は反応性の高い物質であり、細胞を作っている分子から電子を奪うことで変形・損傷させてしまう
- 不要な活性酸素の発生を抑え、体の活性酸素への適応力を高めるように生活習慣をコントロールしていくのが望ましい
- ミトコンドリアでエネルギーを作るときに活性酸素が発生する。ランニングはハードな運動なので発生する量が多い。
- 紫外線、病気、食品や医薬品などは炎症を起こし活性酸素が発生するリスクがある
- 精神的ストレスも活性酸素を生む。ストレスを減らす考え方の習慣づけや環境作りも健康のために重要
長くなりましたので、今日はここまでで。
次回は人の体の適応力や抗酸化物質について、続きをお話ししたいと思います。
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抗酸化物質は本当に必要か? 活性酸素その2
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