食事・サプリ・栄養学

抗酸化物質は本当に必要か? 活性酸素その2

2023年7月22日

今日も前回の記事の続きで活性酸素について勉強していきましょう。

前回
何歳までも健康に走り続けるための活性酸素との付き合い方

今日は活性酸素が老化と運動能力にどのように関係しているのかを考えていきたいと思います。 ところで、あなたは活性酸素にどのようなイメージを持っているでしょうか? 「体に悪いと聞いたことがある」 「日焼け ...

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前回は活性酸素とはどんな物質で人体にどのように作用するのかを学びました。

今回は「活性酸素に対する人の体の適応力」と「抗酸化物質を摂取するというような特別な対策が必要なのかどうか」について考えていきます。

私たち人類は活性酸素が体内で常に発生する状況にあっても、上手くそれを除去して無害化できるように進化してきました。

活性酸素を除去することを抗酸化といいます。

人の抗酸化は

  • 酵素や尿酸など、人が体内で作る抗酸化物質
  • ビタミンやファイトケミカルなど、外部から食事で摂取する抗酸化物質

によってなされます。

活性酸素から体を守ることができるかは「発生する活性酸素」と「体内で作る抗酸化物質+外部から摂取する抗酸化物質」のパワーバランスによって決まります。

人が体内で作る抗酸化物質

人が体内で作る抗酸化物質には例えばスーパーオキサイドディスムダーゼ(SOD)という酵素があります。
(酵素とは、細胞内で作られるタンパク質であり、特定の化学反応を起こしやすくする触媒の機能を持つ)

SODは体内でもっとも多く発生するスーパーオキサイドという活性酸素を過酸化水素というちょっと弱い活性酸素に分解します。

SODの働き
スーパーオキサイド(多くて強い活性酸素)→過酸化水素(弱い活性酸素)

そして、過酸化水素はグルタチオンというタンパク質(これも細胞内で作れる)で水に分解され完全に無害化されます。

グルタチオンの働き
過酸化水素(弱い活性酸素)→水(無害化)

細かい名称はさておき、大事なことは
「このように人の体には活性酸素をきちんと除去する機能が備わっているので、むやみやたらに恐れる必要はない」
ということです。

前回のHolos通信で「運動すると活性酸素が発生する」とお話ししましたが、運動をするとSODやグルタチオンのような抗酸化酵素が増えて働きが強くなることがわかっています。(人の体の適応力は素晴らしいですね)

つまり、運動は

活性酸素が発生という点ではマイナス
SODなどの酵素が活性化するという点ではプラス

という二面性を持っているということになります。

活性酸素発生のマイナスと適応力のプラスはどちらが強い?

このマイナスとプラスのバランスがどちらに傾くかはスポーツの種類によるということが分かっています。

スポーツをしている平均年齢52歳のイギリス人80306人を対象に競技ごとの健康への影響を分析した研究があります。

それによると、テニス、バドミントン、卓球などのラケット競技は心疾患リスクが57%減りました。
水泳は41%減り、エアロビクスは36%減ったそうです。

しかし、サイクリング、ランニング、フットボールについては心疾患リスクの低減は起こりませんでした。

ガーデニングや家事という身体活動度の低いアクティビティでもリスク低減は起こりませんでした。

これは、ラケット競技や水泳などの運動強度であれば、
運動で発生する活性酸素のマイナス影響よりも、運動で抗酸化酵素が活性化するプラスの影響の方が大きい
と解釈することができます。
(運動時では一時的に活性酸素が増えても、日常生活で発生する活性酸素に対応する力も高まるため合計ではダメージが減るということ)

逆にランニングのようなハードな運動では
運動で発生する活性酸素のマイナス影響が大きいため、抗酸化能力が高まっても体は活性酸素で傷ついている
ということになります。

(ガーデニングや家事は強度が低すぎて、そもそもプラスの適応が起こらないと考えられる)

もしこの仮説が正しければ、ランニングをする人は食事を通じて体の外から抗酸化物質を多めに摂取することで健康、老化予防といったメリットがあるのではないかと考えられます。

その仮説を裏付けるような証拠は見つかっているのでしょうか?

『運動が誘導する筋損傷に対するビタミンの働き』(阿部皓一、青木由典、田村元)では次のような事例が紹介されています。

活性酸素を多量に産生する激しい運動による筋損傷にはビタミンEが抗酸化作用を発揮して、その予防効果が確認されています。

自転車エルゴメーターの激しい運動に対して、ビタミンE 1200mg/日を2週間摂取すると、過酸化脂質マーカーである呼気中のイソペンタン量の増加が抑制され、同様にビタミンEを300mg/日投与すると、血中のTBRS値(過酸化脂質マーカー)の上昇が抑制されます。

小谷注)過酸化脂質マーカーの上昇が抑制されるとは、活性酸素に傷つけられる組織の量が減少したことを意味する

『激しい運動の前からビタミンEを1200mg投与すると、遅発性筋肉痛(運動後の数時間から数日に筋肉に感じられる疼痛および筋硬直)の症状は抑えられませんが、血中のクレアチニンキナーゼは抑えられます。』

小谷注)筋肉痛という自覚症状は抑えられないが、実際の筋肉の損傷は抑えられるということ

以上のデータから察するに、ハードな運動の前から抗酸化物質を摂取しておくことで、運動中に体が活性酸素で傷つけられるのを予防することができそうです。

(抗酸化物質の摂取タイミングは運動後でも効果はありますが、私は運動前から摂取することをおすすめしています)

抗酸化物質で筋損傷などを抑えられるとして、それでスポーツのパフォーマンスにもプラスになるのか? というのも私たちランナーの関心ごとだと思います。

『活性酸素とスカベンジャー』(山本義則)に関連した記載があるので引用させていただきます。

平均年齢66歳の男女50名を対象に、6か月に渡ってウェイトトレーニングを行わせた研究があります。
その結果、ビタミンC,Eを摂取した群は摂取しなかった群に比べて除脂肪体重(筋肉の量)が増え、体脂肪も減りました。

60歳以上の持久系アスリートを対象にマルチビタミンミネラルのサプリメントを摂取させたところ、酸素摂取量(心肺機能)などのパフォーマンス向上が見られたという結果が出ています。

このように、パフォーマンスのレベルでも抗酸化物質の摂取で違いが出たというデータは存在します。

活性酸素のダメージが減ることで「トレーニングで鍛えた質の良い組織が無駄に壊れないで維持しやすい」と考えれば長期的にパフォーマンスの違いになるのも納得できます。
(逆に活性酸素のダメージが大きいということは、せっかく作った質の良い組織がすぐにダメになってしまうことと解釈できます)

一方でこのような違いが検出されないエビデンスももちろん存在しています。
私が思うにその違いは

  • 摂取した抗酸化物質の種類と量
  • 摂取するタイミングと継続期間
  • 対象者の年齢
  • 実施した競技の特性、評価方法

が大きく関係していると思います。

ここまでの情報を整理して考えると、抗酸化物質を普通の食事とは別に追加で摂取するメリットが大きくなる条件は

  • 継続期間が長いこと(効果が積み重なって違いが大きくなるため)
  • 運動前から摂取している、あるいは運動開始時点から抗酸化能力が高くなるほどの量・期間摂取している
  • 年齢が高いこと(40歳~から体の抗酸化酵素が弱くなるので外から抗酸化物質を摂取するメリットが大きくなる)
  • 怪我や病気などで炎症反応が出ているような健康状態が悪い人
  • ランニング、サイクリングのようにハードな運動をしている人

といえるでしょう。

今日のまとめ

  • 運動をする人は活性酸素のダメージが増えるが、同時に体の抗酸化能力も高まる。
  • ランニングはハードな運動なので「活性酸素のダメージ>体の適応力」となりダメージを受けやすい。
  • 運動前から抗酸化物質を摂取することで活性酸素のダメージによる筋肉の損傷を抑制できたというデータがある。筋肉量の増加、心肺機能の向上のようにパフォーマンスと関係したエビデンスもある。
  • 40歳~は加齢に従って体の抗酸化能力が低下していくので、外部(食事)から抗酸化物質を摂取するメリットが大きくなる。

今回は多くのランナーにとって体内の抗酸化能力だけに頼らず、食事を通じて外部から抗酸化物質を摂取することはメリットがありそうだということがわかりました。

次回ではたくさんの種類がある抗酸化物質について、その違いと効果的な活用方法について考えていきたいと思います。

その3
数ある抗酸化物質は何が違うのか?

今日は活性酸素に関する3つめのお話しです。 第1回の内容はこちら 『何歳までも健康に走り続けるための活性酸素との付き合い方』 第2回の内容はこちら 『抗酸化物質は本当に必要か? 活性酸素その2』 前回 ...

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