食事・サプリ・栄養学

大会スタート前にあえて糖質を摂らない理由

2024年11月16日

こんにちは。
ランニングショップHolosの小谷です。

マラソンシーズン真っ最中ですが、皆さんは大会の出場予定はありますか?

私は11/30~12/1にかけて台湾で開催される『東呉国際ウルトラマラソン(24時間走)』に出場することが決まりました。

この大会は日本からは大会から招待される形でしか出場することができないのですが、幸運にも出場の機会を得ることができました。
(おそらく3月に日本ウルトラランナーズ協会公認の宮古島24時間走で優勝した実績が認められたのだと思います)

6~8月は練習が思うようにできなかったのですが、9月から調子を取り戻して、今は大会が楽しみに思えるくらいまで復活することができました。

私の感覚的には、スランプが2~3か月くらい続いても、気を取り直して6~8週間くらい練習を継続したら体力はかなり取り戻せる感覚があります。

今スランプという方はぜひ希望をもって、練習を本格再開するきっかけをつかんで、楽しいランニングライフに復活してくださいね。


今日はレース当日のスタート直前までのエネルギー補給について考えてみたいと思います。

皆さんはフルマラソン当日の朝食はスタート何時間前までに、どれくらいの量を食べていますか?

その現状のやり方に疑問をもったことはありますか?

私は今年の1月に館山わかしおマラソンを走ったときは

  • 当日は朝食抜き
  • スタート前もエネルギー補給はしない
  • スタートしてからは途中で3回ジェルを摂取

というエネルギー補給をしました。

私は個人的にこの方法が気に入っていて今後もしばらくは継続していくと思うのですが、この方法を人に話すと

「朝食を食べないとお腹が空かない?」

「スタート直前にジェルなどでエネルギー補給をしている人が多いけど、なぜそうしないの?」

といった質問をいただきます。

これは、私が普段の練習を朝食抜きの空腹状態で走っているので、それに体が慣れているという前提ではあるのですが、まず朝食を抜きにすることで「お腹がスッキリとして体が軽い」という感覚で走り始めることができます。

昔は「これから42kmも走るのだからエネルギーをためないと」と思って朝食もしっかり食べていたのですが、前日の夕食までの間にしっかり食事をしていれば、寝ている間にそんなに筋グリコーゲンを消費しているわけではないので問題ないと考えるようになりました。

また、空腹感があっても、それは筋グリコーゲンが減っていることを意味するのではなく「胃が空になっているから」「一時的に血糖値が低い状態だから」「朝食の時間になったら食べる(空腹になる)習慣になっているから」と考えるようになりました。

実際に空腹感を感じても、コーヒーを飲んだり、会場まで歩いたり、緊張感が出てきたら空腹感は無くなることが私は多いです。

皆さんも「空腹感は必ずしもエネルギーが枯渇しているわけではない」と考えてみると違った見方ができるかもしれません。

また、スタート直前に会場でエネルギー補給をしないのにも理由があります。

1つは、スタート30~45分前くらいのタイミングで糖質を摂取するとインスリンショックでスタート直後に低血糖になってしまうリスクがあるからです。

(食事によるインスリン分泌と運動による血糖の筋肉への取り込み作用が重なることで血糖値が急激にさがる可能性があります)

2つめは、インスリンショックまでのマイナス症状が起きなくても、エネルギー補給によってインスリンが分泌されると脂質代謝が悪化してしまう(その結果レース後半でガス欠しやすくなる)と考えられるためです。

オハイオ州立大学のJeff Volek教授(人間科学)は著書『The Art and Science of Low Carbohydrate Performance』の中でこう語っています。
(原文の後に翻訳あり。下線は小谷が注目してほしい部分に入れました)

A key step is removing the fatty acid from the glycerol back- bone (aka, fat breakdown or lipolysis). This is achieved by the enzyme hormone-sensitive lipase.

Although many factors stimulate the activity of hormone-sensitive lipase (e.g., epinephrine, norepinephrine, growth hormone, activated thyroid hormone), fat breakdown is principally con- trolled by the single hormone that inhibits its activity. That hormone is insulin. In other words, insulin is the primary gate-keeper of body fat. If your insulin levels are consistently high, fat usage is effectively blocked

The primary nutrient that stimulates insulin is dietary carbohydrate. Some forms of carbohydrate stimulate insulin more than others. Thus, consumption of insulin-stimulating carbohydrates is a surefire way to in- hibit your access to the energy stored as body fat during and after exercise.

Thus, focusing on keeping insulin low is associated with significant changes in fat metabolism, favoring decreased storage and increased fat oxidation. In case you're wondering, insulin's effect on fat breakdown does not take days or even hours, its effect is virtually immediate. Keto-adaptation, however, is not immediate. Keeping insulin low is a first step in increas- ing fat availability, but to maximize fat burning the body requires at least a couple weeks of uninterrupted low insulin levels (i.e., 2-3 weeks of con- sistently restricting dietary carbohydrates).

 

重要なステップは、グリセロール骨格から脂肪酸を除去することです(いわゆる脂肪分解やリポリシス)。これは、ホルモン感受性リパーゼという酵素によって行われます。ホルモン感受性リパーゼの活性を刺激する要因はいくつもあります(例:エピネフリン、ノルエピネフリン、成長ホルモン、活性化した甲状腺ホルモンなど)が、脂肪分解はその活性を阻害する唯一のホルモンによって主に制御されています。そのホルモンとはインスリンで

言い換えれば、インスリンは体脂肪の主要な「ゲートキーパー」です。インスリンのレベルが常に高い状態であれば、脂肪の利用が阻まれることになります。

インスリンを刺激する主な栄養素は食事中の炭水化物です。炭水化物の種類によっては、インスリンを強く刺激するものもあります。したがって、インスリンを刺激する炭水化物の摂取は、運動中および運動後に体脂肪として蓄積されたエネルギーの利用を妨げる確実な方法といえます。そのため、インスリンを低く保つことに注目すると、脂肪代謝に大きな変化が生じ、脂肪の蓄積が減少し、脂肪の酸化(燃焼)が増加する傾向があります

ちなみに、インスリンが脂肪分解に与える影響は、日単位や時間単位ではなく、ほぼ即時です

しかし、ケトアダプテーション(ケトン体への適応)は即時ではありません。インスリンを低く保つことは脂肪の利用可能性を高める第一歩ですが、脂肪燃焼を最大化するためには、少なくとも2~3週間の連続した低インスリン状態(つまり、炭水化物の摂取を一貫して制限すること)が必要です。

上記の情報に基づいて考えると、スタート直前にインスリン分泌を促すような糖質補給をすると、スタートしてから糖質を優位に使ってしまうため、ガス欠のリスクが高くなるとも考えることができます。

これが私が今のところスタート直前に補給をしない理由です。

ちなみに走り始めたら交感神経が優位になりインスリン分泌は抑制されるので糖質補給をしても大丈夫です。

同著より引用。インスリン濃度(横軸)が高まると、脂肪の利用(縦軸)が大きく減少する。

なお、セミナーでは「パラチノースはどうですか?」という質問をいただくことがあります。

これは専門家の中でも考えが分かれるところだと思いますが、私個人としてはパラチノースでも直前の補給には使いません。

データによるとパラチノースは砂糖と比べるとインスリン分泌量は半分です(50gを摂取したとき)。

あくまで砂糖と比較して良いというだけで、インスリンは分泌されています。

(パラチノースを推奨するデータはどれも砂糖など他の糖質と比べて良い面があると言っているだけで「何も食べなかった場合」と比較して脂質代謝が改善するor悪化しないと示したエビデンスは私は見たことがありません)

脂質代謝の活性を下げないためにインスリン分泌を抑えることを重視するのであれば、パラチノースでも摂取を控えるということになります。

ただ、私の友人でもパラチノースを気に入っている人はいますし、私も自分の体で何度も検証したわけではありません。

パラチノースの可能性を否定するものではありませんし、効果を感じている方はそのまま使っていただければと考えていますことはご理解くださいませ。

最後にフルマラソン補給の関連記事をピックアップしましたので、大会を控えているという方はぜひご参考にしてください。

今日もお読みいただき、ありがとうございました!

フルマラソンの終盤で違いを生むカーボローディングのコツ

先日『フルマラソン直前の過ごし方セミナー』というオンラインセミナーを開催しました。 このセミナーでカーボローディングの話がありました。 カーボローディングは大会前に体内のグリコーゲン(糖質由来のエネル ...

続きを見る

フルマラソンのスタート前とレース中の補給|よくある失敗の予防と記録向上の方法

フルマラソンの大会で準備したいおすすめ補給食、サプリメントをまとめました。この記事を読むことで「練習で鍛え上げた実力を100%発揮する」ことに役立ちます。大会での快走を目指すランナーの方はぜひご覧ください。

続きを見る

-食事・サプリ・栄養学

© 2024 小谷修平のランニング講座 Powered by AFFINGER5