フルマラソン

フルマラソンに向けた夏の準備|ベースビルディング(基礎作り)の目的と進め方

2025年7月2日

こんにちは。
ランニングショップHolosの小谷です。

7月に入りましたが、皆さんは今月の練習計画は立てましたか?

月末月初というのは、先月を振り返り、次の1か月の計画を立てるのにちょうど良いタイミングです。

秋からのフルマラソンで記録を狙う場合、7月のトレーニングの方向性はとても大切になります。

今回は「この時期にどんな練習をしたら良いのか」について一緒に考えていきたいと思います。

皆さんそれぞれ、目標の大会や現状に違いはあると思いますが、共通して役立つ知識もあると思いますので、ぜひ自分事化しながら読んでみてくださいね。

大きな記録を狙うための広大な基礎を築く『ベースビルディング』

皆さんはマラソンシーズンに入って本腰を入れてトレーニングをしようと意気込んだは良いものの

  • 数週間走ったら違和感が生じて、そのまま故障して思うように走れなくなってしまった
  • 長めのペース走をしようとしたら、全然走れなくて自信を喪失してしまった
  • スピード練習を頑張って継続しても、毎年のように同じくらいの水準で伸びが頭打ちしてしまう

という経験をしたことはありませんか?

その一方で涼しくなり始めたころから「待ってました!」とばかりにガンガン順調に練習して成長を楽しめているランナーもいます。

この違いはどこから生まれるのでしょうか?

その一番の要因は今回からのテーマであるベースビルディング(基礎作り)ではないかと思います。

私自身の感覚では、ベースビルディングとは「目標レースに専門的な練習をしっかりこなせる体を作る期間」と解釈しています。

例えば、フルマラソンなら、レースペースで42.195kmを走り切れるスピード持久力を養成することが最終的なゴールとなります。

そのための練習として、レースペースに近いペースで30kmなどの長い距離を走る練習が特に「フルマラソンに専門的な練習」といえるでしょう。

また

  • 10kmくらいでもレースペースで走って、その動きに体を慣れさせる練習
  • レースペースよりやや速いペースで走り、余裕度を上げる練習(あるいは、レースペースを押し上げると考えても良い)

などもフルマラソンに専門的な練習と言って良いでしょう。

(実際にはどこまでが専門的かという明確な線引きは無く、グラデーションだと考えてください)

ベースビルディングを適切に行うことで

  • 専門的な練習を肉体的にも精神的にも抵抗なく開始することができる
  • 高い練習負荷でも故障しにくいので安定して実力を伸ばせる
  • スピード練習をしたときの伸びしろが大きく成長が早い

というメリットを享受できるようになります。

大きな木が広大な根をもつように、より高い記録を出すためにはより強固な基礎体力を築くことが重要です。

一般的に基礎作りには時間(期間)がかかりますので「涼しくなってから頑張ろう」では十分とは言えないかもしれません。

「今年のマラソンシーズンは自分に期待できるワクワクした日々にしたい」と思っている方は、夏の今こそコツコツと基礎作りに励む価値が大いにあるでしょう。

基礎作りというと「走り込み」をイメージされる方が多いでしょう。

まさにベースビルディングでは、ゆっくり長く走る練習がメインとなります。

昔の部活動などで「しっかり追い込まなきゃ効果が小さい」というイメージが定着化している方には意外かもしれませんが、実は低強度(ランニングウォッチの心拍ゾーンでいうZone2程度)の有酸素運動にはたくさんの恩恵があります。

  • 筋肉中のミトコンドリアが増える
  • 毛細血管が発達して酸素供給がスムーズに
  • 脂質代謝が活発になり、長時間の運動に強くなる
  • 練習後の疲労が少なく、継続しやすい

ゆっくり走るだけでも、より速いペースで走れるようになり、同じペースでも余裕度は上がり、より長時間疲れずに走れるようになります。
(もちろん、ある程度の高強度トレーニングと組み合わせるのがベストではありますが)

イージーランがイージーではない理由

ジョギングのことをイージーラン(easy run)と呼ぶ人もいます。

ただ、easyだからといって、簡単とは限りません。

むしろ性格によっては、ジョギングメインのベースビルディングの期間の方がハードなスピード練習がある期間よりも難しく感じる人もいるでしょう。

ベースビルディングの難しさには以下の要因があると私は考えています。

単調に感じて飽きやすい。楽なので効いている感じがしない。

呼吸の上がるような練習は「きつかった」という印象が残り、これは自分が成長していると感じやすいものです。

一方で順調にベースビルディングができているジョギングは、走っている最中はきつくありませんし、コンスタントに高頻度で走るために「脚が重くなる」ほどの距離をそう走るものでもありません(ある程度のロングジョグもしますが、練習リズムを崩さない程度に抑えるのがベターでしょう)。

ゆっくり長く走るのは単調で飽きやすい。
刺激が欲しかったり、効いている感じを出したくてペースを上げすぎてしまう。
大会までまだ期間があるので、ついサボってしまう。

これらの誘惑に負けずに淡々と練習を消化していく姿勢が求められるのがベースビルディングの難しさだと思います。

時間を投資する意気込みが求められる

ゆっくり長くがメインのベースビルディングの期間は当然ながらトレーニングにかける時間的な投資が大きくなりやすいです。

いつもより時間を確保するために、生活上の工夫をしたり、時には何かを犠牲にする必要もあるかもしれません。

短時間の練習で効率的に成果を出す方法もちろんありますが、「かけた時間がものをいう」という側面があるのも紛れもない事実です。

時間を生み出すための創意工夫や自己統制といった能力。

そして、「時間を投資しよう」という意気込みが求められることがベースビルディングの難しさではないでしょうか。

スピードが一時的に低下することに不安を感じる

ベースビルディングではスピード練習の優先度を下げるため、一時的にスピードが低下してしまうリスクがあります。

(これはレベルにもよると思いますが、一般的には通年でしっかりスピード練習をしている記録の高い人ほど高強度の力が低下しやすいでしょう。逆にフルで3時間45分~くらいの方なら、走行距離が増えることでより速くなる可能性も十分に秘めていると思います)

このスピードの低下が不安でなかなかスピード練習の負荷を抑えることができず、結果としてベースビルディングに失敗してしまう方もいらっしゃいます。

著名なサイクリングコーチであるトーマス・チャップル氏は著書『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』の中でこう語っています。

「速くなる過程で、遅くなる時期がある」という考えは一見すると不可思議にも思えますが、これは真実です。
 
体力の上限を一時的に下げることでベース体力をよりしっかりと構築し、その後で上限を以前よりも高く、確固としたものにできるようになるのです。
 
ベースの構築に比べれば、上限を再び押し上げることは短期間で済みます。

これが経験豊富なコーチが語るスポーツの現場で起きていることです。

手にした能力を一時的にでも手放すことは勇気がいりますが、知識と理性の力があれば、それを乗り越えることは少しは容易になると思います。

今回のアクションプラン

さて、今回は皆さんにベースビルディングの目的と重要性、実施するときの難しさについてお伝えしてきました。

秋からのシーズンがワクワクしたものになるように、夏も有意義に感じながらトレーニングを楽しめるように。
ぜひ今年はベースビルディングを意識した練習計画をしてみてはいかがでしょうか?

そのためにも、ぜひまずは

  • 目標レースを明確に設定する
  • 直近2~3か月くらいの練習を振り返る
  • 「ゆっくり長く」を意識して、無理のない今月の練習計画を考える

をやってみてはいかがでしょうか。

次回は練習メニューや栄養面など、ベースビルディングの実践に役立つより詳細なポイントを紹介していこうと思います。

お楽しみに!

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