ここ数回のブログでは活性酸素をテーマにランナー視点で考えてきました。
今回で活性酸素の話題は一区切り。
最終回の今回では
- 抗酸化サプリに対する反対意見の紹介
- ランニングにおける効果と行動上のアドバイスを再まとめ
をして終えようと思います。
前回までの内容はこちら
第1回
『何歳までも健康に走り続けるための活性酸素との付き合い方』
第2回
『抗酸化物質は本当に必要か?』
抗酸化物質に対する反対意見の代表例
抗酸化物質に否定的な方のお考えとして
- 抗酸化物質を摂取すると、体を甘やかしてしまい、かえって強くなれないのではないか?
- 抗酸化物質を摂取すると逆に回復が遅くなるという話を聞いたことがある
という声があります。
この「何かを使って楽になることで、かえって鍛えられないのでは?」という感覚、私もわかります。
似たような例として私も「サポートタイツで楽をして走ると強くならないので、練習では使わない方が良いのでは?」と思っていたことがあります。
これまでにお話ししてきたように私は一定の条件下では抗酸化物質に肯定的です。
(その条件とは、ランニングというハードなスポーツをしている人で、特に体の抗酸化能力が低下しはじめる40代以上という方)
肯定的であるからこそ、抗酸化物質に妄信的にならず、反対意見や限界についてもよく理解した上で納得して抗酸化物質を活用していくためにも、上記の反対意見について考えていきたいと思います。
抗酸化物質が逆効果となったといわれるデータ
抗酸化物質の投与が逆効果となったといわれる研究を2つ紹介します。
1つめは
『Antioxidants prevent health-promoting effects of physical exercise in humans』(Michael Ristow 2009)
被験者は平均年齢が26歳。
週5回の頻度で「20分の有酸素運動+45分のサーキットトレーニング」を実施。
片方のグループにはビタミンC1000mg、ビタミンE267mgをサプリで投与。
4週間継続したところ、サプリ投与群では体内で作る抗酸化酵素(つまり、その人自身の抗酸化能力)の増加が少なかったという結果になりました。
つまり、抗酸化サプリによって活性酸素のダメージが減少した結果、活性酸素に抵抗する能力の増加が減少したということです。
これは、一定の条件下では抗酸化サプリで狙った効果を得られない可能性を示唆するものとして重要なデータだと私は思います。
私も20代半ばのような若い健康な人が週5回の頻度で4週間、余裕を持って(*)継続できる程度の運動負荷なら抗酸化サプリは不要かと考えています。
(*)余裕を持ってというのは、この実験では運動を継続できずに脱落した人は1名もいなかったこと。被験者の半分は日常的に運動していない体力水準の低い人たちだったことからも予想できます
活性酸素に関する第2回の記事で抗酸化物質を摂取するメリットが大きくなる条件は以下の5つではないかと紹介しました。
- 継続期間が長いこと(効果が積み重なって違いが大きくなるため)
- 運動前から摂取している、あるいは運動開始時点から抗酸化能力が高くなるほどの量・期間摂取している
- 年齢が高いこと(40歳~から体の抗酸化酵素が弱くなるので外から抗酸化物質を摂取するメリットが大きくなる)
- 怪我や病気などで炎症反応が出ているような健康状態が悪い人
- ランニング、サイクリングのようにハードな運動をしている人
このエビデンスでは継続期間は4週間と活性酸素の悪影響が積み重なって表面化してくるにしては短く、若くて健康な人で、運動の内容もそこまでハードではないことから、抗酸化物質のプラスの面が現れにくかったのではないかと思います。
2つめは
『Ascorbic acid supplementation does not attenuate post-exercise muscle soreness following muscle-damaging exercise but may delay the recovery process』(Graeme L Close 2006)
です。
これは
- 下り坂ランニング(60%VO2max、30分間なのでそこまでキツくない)を1回して、その後の筋肉痛や筋力の回復するペースを調査
- 片方のグループはビタミンC1000mgを下り坂ランニングをする2時間前、その後14日間毎日摂取。もう片方はプラセボ群。
- ビタミンC摂取グループは活性酸素の発生こそ抑えたものの、筋肉の機能が回復するのにはプラセボ群より時間がかかった
というものです。
つまり、ビタミンCの摂取は運動後の筋疲労の回復をかえって遅らせる可能性があることを示唆しており「抗酸化物質はどんな条件・方法で摂取しても効果がある」という安易な考えにブレーキをかける意味でも価値があると私は感じます。
それを踏まえて、なぜこの実験では抗酸化物質に効果が出なかった(むしろマイナス面が出た)のかを考えてみたいと思います。
まずは被験者の年齢です。
この実験でも被験者の平均年齢は23歳と若く、抗酸化物質のプラス面が出にくかったのではないかと思います。
また、ビタミンCのみを大量に摂取したことで『フェントン反応』が発生し、回復を遅らせた可能性もあります。
専門的なので簡略化しますとフェントン反応とは
『運動などでスーパーオキサイドという活性酸素が大量に発生した状態でビタミンCを一気に摂取するとヒドロキシラジカルという最も有害な活性酸素が発生してしまうという化学反応』
です。
そして、これを予防するためには体内にビタミンEを十分に蓄えておくことが必要です。
なので、ビタミンCはビタミンEとセットで摂取することが基本といえます。
活性酸素のホルミシス効果
ホルミシス効果とは、その物質が大量に使用された場合は有害となる一方で少量であれば有益な刺激となる現象のことをいいます。
例えば、運動のストレスもその1つです。
適度な運動であれば健康にとってプラスですが、過度に運動しては体を消耗して健康を損ねてしまいます。
活性酸素も同様にホルミシス効果が知られています。
活性酸素が過剰になったときのマイナス面は第1回でお話ししました。
逆に活性酸素が少量のときは
- 抗酸化酵素、DNA修復酵素の活性増加
- 筋力の増加
- 運動に対する適応性上昇
などのプラス面が知られています。
下の図は
横軸:活性酸素の量
縦軸:上にいくほどポジティブ、下にいくほどネガティブな反応
として、ホルミシス効果を表したものです。
出典『運動が誘導する筋損傷に対するビタミンの働き』(阿部皓一)より
ホルミシス効果の観点から先に紹介した2つのエビデンスを考えると以下のようになります。
1つめ:健康な20代半ばの人が軽度の運動をするくらいなら、ビタミンC1000mg、ビタミンE267mg/日は抗酸化が強すぎて、かえってトレーニングへの順応を弱めてしまう。
2つめ:健康な20代前半の人が1日だけ30分の下り坂ランニングをして、その後14日間は運動無しなのにビタミンC1000mg/日を飲み続けるのは抗酸化が強くなりすぎてしまう。
よって、抗酸化物質をサプリで摂取することでメリットが得られるかどうかは年齢、運動の内容、サプリの摂取量や継続期間などの条件によって変わるといえるでしょう。
ランナー視点でのメリットをまとめ
最後にランナー視点で抗酸化物質を使用するメリットをまとめたいと思います。
今回の内容で「抗酸化物質は闇雲に使えば良いというわけではなく、メリットのある条件下で適切に使うことが望ましい」ということが分かりました。
抗酸化物質のメリットが現れやすい条件は
- 継続期間が長いこと(効果が積み重なって違いが大きくなるため)
- 運動前から摂取している、あるいは運動開始時点から抗酸化能力が高くなるほどの量・期間摂取している
- 年齢が高いこと(40歳から体の抗酸化酵素が弱くなりやすい)
- 怪我や病気などで炎症反応が出ているような健康状態が悪い人
- ランニング、サイクリングのようにハードな運動をしている人
でした。
よって、40代以上でフルマラソンを目標に練習をしているような市民ランナーの方は特にメリットが大きいと思います。
どんなメリットがあるかというと
- 筋損傷、筋肉以外の組織の酸化ストレスによる損傷を軽減することで、疲労の蓄積を予防し、良い練習を継続できるように。
- 組織の無駄な損傷が減ることで、トレーニングで新生した質の良い組織を体に残しやすくなりパフォーマンスの向上に。
- 無駄な損傷が減れば組織を頻繁につくりかえる必要がないので老化の進行を遅らせる。(細胞は分裂・複製を繰り返すほど老化していくため)
ということです。
行動面のまとめ
活性酸素から体を守るためにできる行動をまとめます。
無駄な活性酸素の発生を抑えるために
- 紫外線が強い時期のランニングは日差し対策をする
- 病気をしない、よく笑う
- 農薬や添加物の多い食品の摂取量を減らす
- 医薬品は必要な分だけ。薬に頼りすぎない。
- 精神的ストレスを減らす考え方の習慣づけや環境作り
抗酸化物質を摂取する
野菜や果物にはビタミンやファイトケミカルという抗酸化物質が豊富に含まれています。
ファイトケミカルは色の種類で分類することができ、「食材を彩り豊かに摂取する」ことで効果が高くなると考えられています。
以下の表を参考にして、色のバリエーションが増えるように食事をすると良いと思います。
サプリメントについては以下の3つの着眼点で選ぶのがおすすめでした(第3回)。
- 成分によって機能する場所、臓器が異なる
- 相乗効果が知られている抗酸化物質の組合せを利用する
- 抗酸化以外の機能も嬉しいものを選ぶ
次の表は私がサプリを使って積極的に摂取している抗酸化物質の一覧です。
抗酸化以外にもランナーにとって魅力的な効果が知られており、作用する場所も体全体をバランスよくカバーするよう意図しています。
私が開発したCatalystサプリのうち、活性酸素対策として最もおすすめなのはCatalyst Recovery(CR)です。
おすすめの抗酸化物質を組み合わせつつ、損傷予防やエネルギー産生に重要なビタミンD、ビタミンB群などを配合しています。
水素については、体内に入ってから水分と反応することで水素分子が発生し、血流にのって全身に届くことがデータで確認されている特許原料を採用しています。
ホルミシス効果を考慮すると、練習量や年齢に応じて飲む粒数は変わります。
自分の体の声を聞きながら自分にあった飲み方を模索してください。
(目安となるおすすめの飲み方はこちらの記事に)
CCPやCSのような他のCatalystサプリと組み合わせも問題ありません。
Catalystサプリのそれぞれの狙い
CCP → フルやウルトラのパフォーマンスアップ(脂質代謝、心肺機能、抗酸化、減量)
CS → 中枢性疲労、最大酸素摂取量、日常の精神的ストレス対策
CAE → ウルトラの胃腸障害の予防、レース前の調整として内臓疲労対策
CR → ダメージ減少、回復力アップ、何歳までも走り続けられるように長期的な視点でのメンテナンス
さて、活性酸素について4回にわけて長くお話ししてきましたが、いかがだったでしょうか。
活性酸素への対策は「空腹時にエネルギージェルを飲んだらスグに元気が出る」というような分かりやすいものでは無いと思います。
しかし、対策をするかしないかで1か月後、2か月後、3か月後、、、と少しずつ違いが積み重なって、その差は大きくなっていきます。
いつまでも元気にランニングを楽しみ続けられるように、ぜひ今回学んだ知識を活かしてくださると嬉しいです。
それでは。