ウルトラマラソン

ウルトラの壁「上り坂」を攻略する。動作の専門家が教える3つのポイント

2025年10月18日

こんにちは。
ランニングショップHolosの小谷です。

今日は先日募集したウルトラマラソン攻略に関する質問で多かった「起伏に強くなるにはどうしたら良いか?」というテーマについて考えていきたいと思います。

例えば、読者の方からこんな声をお寄せいただいています。

▼男性/40代/フルマラソン3時間40分~3時間59分/目標:野辺山ウルトラ完走

野辺山マラソンの前半のタイムが若い時より落ちています。
どうも普段平坦な道を走っているせいか、野辺山前半のような起伏の激しいコースになるとペースなどが下がっているようです。

なので坂道の練習をしようと考えています。
しかし、私が住む千葉県ではそのような急勾配の練習ができるコースがあまりないようで、遠征をしなくとも坂道練習に繋がるような方法を探しています。

▼男性/60代/フルマラソン3時間20分~3時間39分/目標:野辺山ウルトラ10回完走

野辺山の70km以降の登りのセクションで、脚が前に出なくなるので、登りのフォームと走り込みを集中的に練習しているが、なかなかタイムが伸びてこない。

野辺山、飛騨高山、津南など起伏のあるコースを走るウルトラランナーにとって、上り坂は避けて通れない課題です。

得意だけど、言語化できない

正直なところ、私自身は起伏に苦手意識がありません。
むしろ、上り坂では他のランナーと比べて相対的にペースダウンが少なく、優位に走れている気がします。

しかし、なぜ自分が上りを得意としているのか?

これを言語化しようとしたとき、個人の経験レベルを超えた普遍的な説明ができないことに気づきました。

感覚的には理解していても、それを論理的に説明し、皆さんに役立つアドバイスにすることができなかったのです。

ランニング動作の専門家の植松さんに相談

そこで、上記問題を解決するために適任者である植松駿太さんに相談することにしました。

植松さんは、ランニング教室『サニエスリンク』の代表で、ランニング動作の専門家です。
以前、私が個人的にパーソナルトレーニングをお願いしていた方でもあります。

トレーナーとしての高い専門知識はもちろん、ランニング教室での実践的な経験値の豊かさ、そして常に学び続ける向学心。

そんな植松さんなら、私が言語化できなかった「上り坂の走り方」を、論理的かつ実践的に説明してくれるはずだと思いました。

LINEで質問を送ると、すぐに丁寧な回答が返ってきました。
今日は、その内容を皆さんにシェアします。

特に起伏が苦手だと感じている方、坂道練習をする環境がない方にとって、ヒントになる内容だと思います。

ポイント① 平地と上り坂、何が違う?

まず、上り坂を走るとき、体にはどんな変化が起きているのでしょうか?
植松さんの解説によると、主に3つの違いがあります。

1.前傾が1〜2°増える

平地と同じ姿勢で上り坂を走ろうとすると、体が後ろに戻されてしまいます。

なので、体の前傾が自然に1〜2°程度増えるのが普通です。
かなり急な坂や階段では、3〜4°程度前傾が増えることもあります。

「たった1〜2°?」と思うかもしれませんが、この微妙な角度の調整が、走りやすさや効率に影響してくるそうです。

2.視線が変わる

平地では、50〜100m先の地面が視野の中心にあります。
しかし、緩やかな上り坂では10〜30m先、不整地の上り坂や階段では2、3歩先くらいが目安といえます。

ここで問題になりうるのが、視線のミスです。

下を見すぎて猫背になったり、逆に上を見すぎて体が起きてしまったりすると、解剖学的な姿勢やエネルギー効率の観点から、「苦手」と感じやすくなってしまうことがあるようです。

3.脚の動きの「縦の要素(垂直方向)」が必要になる

上り坂では脚の動きの「縦方向」の要素がより求められます。

(極端な例でいうと、階段を上るときは脚を前後に振り子のように振る動きではつまずいてしまいますよね)

  • 骨盤の回旋でストライドを稼いでいる人
  • 地面のちょっとした障害物(凹凸)をまたぐときに足の軌道を横にズラして抜く傾向の人
  • 片足立ちのときに上体がうしろにのけ反る人

このような傾向の方は脚の縦方向の動きを出すのが苦手なケースが多く、上り坂が苦手になりやすいようです。

ポイント② 「股関節を使っている感覚」が上手に走れているかの判断材料に

植松さんによると、主観的な感覚として「股関節を使っている感覚が増えているか」が上り坂を上手に走れているか否かの判断に使いやすいそうです。

これは私もなんとなく体感的していたことで、接地直後に股関節に乗って(体重が股関節にかかるイメージ)グイグイ地面を押して進んでいけるような感覚が今はあります。

上りが今よりも苦手だった昔は、先述の「縦の動き」が少なくて、太もも(大腿四頭筋もハムストリングも)を酷使しながら「地面を手前にたぐりよせる」というか「身体を坂の上に向かって引き上げていく」という感覚が強かったように記憶しています。

①身体の前傾
②視線
③脚の「縦の動き」

練習ではこの3つの着眼点を試行錯誤してみましょう。

ペースや疲れやすさに加えて、「股関節を使っている」という感覚が良いフォーム発見のためのヒントとなるでしょう。

ポイント③ 上りに強くなるために

「坂道練習ができる環境がない」という方も多いと思います。

では、実際に坂を走る以外に、上りに強くなるための方法はあるのでしょうか?
植松さんは、次のような提案をしています。

1.骨盤の過回旋を無くす

普段から、骨盤回旋を過度に入れて歩いたり走ったりしている方は上りを苦手と感じやすい傾向にあります。

まずは意識において「腰(骨盤)をひねるようにしてストライドを伸ばそうとしていないか?」と自問してみましょう。

ちなみに、私も昔は「回旋した方がストライドが伸びる」と勘違いしていたのですが、今では腰(骨盤)は動かすよりもむしろ安定(固定とまではいかない)させるように意識しています。

この方が股関節のパワーが発揮できるし、昔は腰の疲れを感じることがありましたが、今はそれが解消しました。

2.真っすぐで安定した片足立ち

2つめのアドバイスとしては、片足立ちをしたとき、上体が影響なく鉛直に脚に乗っていられることも重要だそうです。

鏡を見ながら片足立ちをしてみて、グラつきなく、芯が通ったように立てているか確認してみると良いでしょう。

なお、これが苦手な方にはスポーツネックレスKernelがおすすめ商品です。

最近のレビューでは『トレランの特に登りが楽になったような気がします。 (はっしーさん)』との声も。

Kernelはメカニズムは謎ですが、着用するとすぐに片足立ちなどの安定性が高まる効果があるようで、2016年に開発してから私もずっと着用しています。

3.腸腰筋にテンションを作れる姿勢

上りに強くなるためには、腸腰筋(腰の深部にある筋肉)が働きやすい姿勢を習慣にすることが大切です。

  • 座っているときに膝をくっつけていたり
  • 骨盤がだるんと丸まっていたり

すると、腸腰筋にテンション(張力)を作れない体になってしまいます。

これは、上り坂でかなり影響するようです。

このような座り方が習慣になっている方は、見えるところに付箋で「姿勢に注意!」と貼っておくなどして、無意識を意識化して少しずつ改善していくと良いでしょう。

私の感覚と植松さんの見解が一致

実は植松さんに質問を送る際、私自身が感じていた上り坂の特徴も一緒に伝えていました。

たとえば、

  • 接地時に股関節の屈曲角度が出しやすくなる
  • 平地より相対的に接地時間が長くなるため、長時間バランスよく片足支持して力を地面に加える必要がある
  • 落下→エネルギーを溜める→地面を推す、というサイクルで、一部のエネルギーが位置エネルギーになり失われるので、より股関節伸展筋による仕事が求められる

といった内容です。

植松さんからは、「全てこの見解は合っていると思います」という言葉をいただきました。
自分の感覚が理論的に裏付けられたようで嬉しかったです。

まとめ

今日は上り坂に強くなるにはどうしたら良いかをテーマにお話してきました。

ポイントを整理すると

  • 上り坂は、①体の前傾バランス、②視線、③脚の垂直方向の動き の3つの着眼点がある
  • 「股関節を使っている感覚」が上手に走れているかの判断材料に
  • 芯が通ったように真っすぐ安定した片足立ちができるようになること
  • 腸腰筋のテンション(張力)が落ちるような座り方をしないこと

でした。

このようなヒントがあると、「自分も坂に強くなれるかも」と期待が持てますよね。
上りに苦手意識があった方はぜひ試してみてください。

今日もお読みいただき、ありがとうございました!

-ウルトラマラソン
-