ケア・故障予防

故障を避けたいランナーへ。走行距離・睡眠・栄養…本当に大切なこと

2025年7月26日

こんにちは。
ランニングショップHolosの小谷です。

今日は「故障リスクを抑えながら練習負荷を高めていき、走力を向上させていく方法」について考えていきたいと思います。

前回のブログでは「大会から逆算したトレーニングメニューの作り方」について紹介しました。
その中で「徐々に練習負荷(距離×スピード)を高めていきましょう」という提案をしました。

「より強くなるためには、よりハードな練習が必要」という考え自体には納得される方も多いと思うのですが、一方で「でも、実際問題としてそんなに走ろうとしたら故障してしまうのでは?」という疑問も持たれた方もいらっしゃると思います。

市民ランナーの故障に関するデータを国内、海外の事例で調べてみたのですが、傾向としては約50%のランナーが1年間の内で何らかの故障を経験するようです。
このデータからも、多くの方が故障に悩んでいることが分かります。

しかし、その一方で故障にあまり悩まされることがないランナーもいます。その違いはどこから来るのでしょうか?

故障を回避していくためには、その原因についての理解を深めていく必要があると思います。
そこで、一般的に故障の原因とよく言われる要素について取り上げて、それぞれ考察してみたいと思います。

ランニングフォームは課題だが、改善の難易度が高いのがネック

故障しやすい走り方、故障しにくい走り方というのは確かにいくつかのパターンが知られています。

例えば

  • 膝が真っすぐ伸びた状態でオーバーストライド気味で接地してしまう(ストレートレッグ)
  • ニーインという接地時に膝が内側にブレてしまう動き
  • 接地時に遊脚(接地していない方の脚)側の骨盤が落ちてしまう動き

などがあります。

こうした不良動作については、自力で修正するには専門書などを読み込んでそのメカニズムを理解し、かつ自分の動きを分析しながら運動を学習していくという地道な努力が必要となります。

もちろん、専門家の力を借りればより短縮したルートでフォームを改善していくこともできるでしょう。

テーマから反れてしまうので、今回はフォームの改善方法についての詳細は割愛させていただきます。
逆に今回のテーマにおいて、目を向けて欲しいポイントの1つは「ランニングフォームが洗練されている」と考えられるプロアスリートでも故障はするという事実です。

プロアスリートは限界に挑むために、自分の回復力ギリギリのラインで日々トレーニングを積んでいます。
よって、フォームがどれだけダメージの少ない卓越したものでも、走ることで生じるダメージ(筋肉や関節への物理的なストレスや活性酸素などの化学・代謝的なストレス)は確実に受けており、それをトレーニング以外の時間で回復しきれなければ、ダメージが蓄積してそれが故障になってしまいます。

あえてこのような「当たり前」な話を取り上げたのは、

「『故障=フォームの問題』と結論付けてしまい、故障予防に役立つ他の努力を怠ってしまうことが無いようにしましょう」

ということをお伝えしたかったからです。

これは、過去の私が強くそう思っていたことです。
故障してしまったときは、スポーツ整形に通って動作を改善するためのエクササイズを紹介してもらい、それを繰り返したら治るものと思っていました。

専門家に分析してもらい、エクササイズをすることはもちろん大切です。
しかし、私は「慢性的に7時間以下の睡眠が14日以上続くと、筋骨格系の故障リスクが約1.7倍高まる(※)」というような事実も知らず、睡眠を疎かにすることもありました。

※『Sleep and Injury Risk」』(Huang & Ihm, Current Sports Medicine Reports, 2021)

ランニングフォームは確かに故障に影響しますが、実際問題としてそれを改善していくのは根気強い努力や専門家の助けが必要だったりと難しい側面もあります。
一方で、後述する練習計画の作り方や、睡眠・栄養などのリカバリーに気を付けることは比較的簡単に実行することができます。

色々な考えがあると思いますが、私は個人的には「フォームの影響を過大評価せずに、他の要素にも目を向ける」というのは多くの市民ランナーにとって現実的な指針ではないかと直感しています。

走りすぎると故障する? 意外な走行距離と故障リスクの関係

次は練習量(走行距離)と故障リスクに関する科学的な知見を見ていきましょう。
直感的には「走れば走るほど故障しやすい」と思われる方が多いのではないかと思います。

しかし、故障リスクと練習内容について調査した研究などの知見を整理すると、以下のような傾向が見えてきます。

  • 走行距離が少なすぎるとかえって故障リスクが高い
  • 練習負荷が短期間で急に増えると故障リスクが上がる(負荷そのものよりも、急激な変化に問題がある)
  • 頻度の高い練習の方が故障しにくい
  • 年間を通じて継続的に走っている方が故障しにくい

走行距離とリスクの傾向

週走行距離 故障リスク コメント
~15km 高い 身体がランニングに十分慣れていない
15〜30km 中程度〜やや低 基礎的な適応が始まるゾーン
30〜60km 最も安定 関節・腱の適応が順調に進み安定してくる
60km〜100km以上 やや上昇 より高い記録を目指すランナー。
より高度なリカバリー戦略が必要に。

これらの知見から、故障を予防しながら走力を向上させていくためには、理性的に、計画的に練習メニューを作ることが最初のステップといえます。

特に負荷が急に上がりすぎることが無いように注意しましょう。

私はポラールを使っていますが、心肺運動負荷という「負荷が急に上昇していないか」をチェックする機能は役立つなと感じています。
負荷が急に上がると「オーバートレーニング」という表示がされ、注意を促してくれます。

このステータスが自分の感覚ともあっているので、主観+ポラールの客観的なデータの2つを組み合わせて、やりすぎることのないように日々注意しています。(他のメーカーさんでも類似した機能があると思います)

また、頻度が高めの練習にすることで、危なげなく練習負荷を高めやすいとも実感しています。
先日のブログで「夏場の練習は分割しよう」というお話をしましたが、故障予防という意味でも頻度を多めにするのは役立ちます。

【関連記事】
Marti et al., 1988|スイスの市民ランナー5,000人調査
走行距離が多いランナーほど、1kmあたりの故障率は低くなるという結果を示した研究。

『Are You at a Higher Risk for Running Injuries? The Latest Research on Who Gets Injured and Why』

「IS THERE EVIDENCE FOR AN ASSOCIATION BETWEEN CHANGES IN TRAINING LOAD AND RUNNING-RELATED INJURIES?」(Damsted et al., 2018)
急激な走行距離の増加が故障リスクにどう影響するかを、システマティックレビュー形式で丁寧に分析しています。「2週間で30%以上の距離増加で怪我リスク1.6倍」

ランニングシューズと故障

私はシューズの専門家ではありませんが、個人的な経験や友人の体験談から、シューズが故障リスクと関係しているだろうとは直感しています。

とくにカーボンシューズの登場によって、故障の箇所が「膝から下」から「股関節」へとシフトする傾向があるという報告もあります。

私は個人的にはカーボンシューズが好きですが、先日あった超ウルトラ中心の友人たちの中ではカーボンはやや不評のようでした。
シューズ単体の問題ではなく、走り方によってシューズとの相性があるのでしょう。

また、どんなシューズを履くかによって走り方の方が自然と変わるという側面もありますので、シューズと故障に関する議論は複雑になり、正直なところ、私も皆さんに確信を持ったアドバイスはできないという気持ちです。

いち個人としてのシューズに関する考え方をシェアさせていただくと

  • フィット感、足を入れたときの違和感のなさ、安心感がまず前提条件
  • その前提条件を満たす中で、軽く走ってみて違和感がないこと(柔らかさ・固さがちょうど好み。安定感がありグラグラする感じがしない。重さが気にならない。)

という条件でシューズを選んでいます。

私の足の形の問題かもしれませんが、この条件で絞り込むとほとんど1~2足くらいしか「これだ」というシューズと出会うことがありません(フィット感の段階でせいぜい3つくらい)。

そのため、その買ったシューズを何度もリピートして使い、そのシューズと自分の走りが完全に馴染んでいくようにするという方針を好んでいます。

逆に、東大卒箱根ランナーの松本翔さんは(たしか、松本さんだったと思いますが、記憶違いでしたらごめんなさい)、書籍の中で「色々なシューズを履いてきたことが故障しにくい走りにつながった」と語っていたと記憶しています。

1つのシューズに走りを合わせていく私。どんなシューズでも走れる、走りの調整力を養う松本さん。

対照的ですが、どちらの戦略にもそれなりの筋が通っていて面白いですね。

まとめ

さて、今回は故障という複雑で難しい課題について、多面的に考察をしてきました。
情報量が多くなってしまいましたので、行動改善のためのポイントを整理していきましょう。

  • 慢性的(14日以上)な睡眠不足(7時間以下の睡眠)が続くと故障リスクが1.7倍も高まるという報告もあります。
    睡眠時間が短い方は、今の生活習慣を見直して、どうしたら睡眠に投資できるか検討してみましょう
  • 「走りすぎたら故障する」と信じてきた方は、その前提を少し疑ってみると成長のきっかけになるかもしれません
  • トレーニングメニューは計画的に。急な負荷の変化を避けること(月間で10%以内が目安としてよく使われる)、頻度を高めることで故障リスクを抑えやすい

また、睡眠と同様に栄養面もまた故障リスクとの関係が知られています。

最近のレビューでは、練習に対して少なすぎる熱量(カロリー)の食事、低脂質の食事(特に女性の場合、悪影響)は優位に故障リスクが上昇すると報告されています(Colebatch et al., 2025)。
また、食物繊維の不足は骨ストレス障害のリスクが上がる傾向にあります。

故障リスクを抑えて、楽しく思い切り走り続けるためにも、リカバリー(睡眠・栄養・心の状態)にも目を向けるように意識してみてください。

今日もお読みいただき、ありがとうございました!

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