食事・サプリ・栄養学

腸内環境「お通じにいいだけ」と思っていませんか?

2026年8月8日

こんにちは。
ランニングショップHolosの小谷です。

今日は「腸内環境」という切り口からランニングライフを向上していけないか検討してみたいと思います。

正直なところ、私は以前、腸内環境の重要性をほとんど理解していませんでした。

「お通じが良くなる」
「なんとなく健康に良さそう」

その程度の認識で優先順位の高いテーマだとは考えていませんでした。

しかし、人体について色々と勉強していく中で徐々にその重要性を感じるようになっていきました。

例えば、先日読んだ書籍にはこんな研究が紹介されていました。

「腸内細菌を変えたら、食べたいものが変わった」という研究

2022年に発表された研究です。腸内細菌を持たないマウスに食性の異なる野生の齧歯類(げっしるい)から採取した腸内細菌を移植したところ、移植された菌の種類によって、マウスが自ら選ぶ食事の傾向(高タンパクを好むか、高脂質を好むかなど)が変わることが示されました。

つまり、腸内細菌が、「何を食べたいか」という感覚そのものに影響を与えている可能性があるということです。

ほかにも、腸内細菌が食欲や満腹感に関わるホルモンの信号を真似ることで、満腹感をコントロールするホルモンへの体の感受性を変化させるという報告もあります。

誤解を恐れずに言えば、「太りやすくなる腸内細菌」「痩せやすくなる腸内細菌」がいる、という言い方もできるかもしれません。

「なんとなく甘いものが欲しくなる」
「気づけば同じような食事ばかり選んでしまう」

そうした毎日の小さな選択の背景に腸内細菌が関わっている可能性があるのだとしたら、腸内環境を整えることの意味は単なる消化の話にとどまらないのではないでしょうか。

このような腸内環境に関する興味深い研究は調べてみるとたくさんあります。
私はそれらを読んでいくうちに「腸内環境に気を配った生活をしよう」と思うようになってきました。

なぜ腸がそこまで影響するのか

私たちの腸の中には、およそ40兆個もの細菌が暮らしています。
これは、人間の体を構成する細胞の数を上回るとも言われる、驚くべき規模です。

腸は、しばしば「第二の脳」と呼ばれます。
脳と腸は自律神経やホルモン、そして腸内細菌が作り出す物質を通じて、常に情報をやり取りしているからです。この双方向のつながりは「腸脳相関」と呼ばれています。

腸内細菌の仕事は、栄養素を消化吸収させることだけではありません。

まず、ビタミンの生産です。
腸内細菌はビタミンB群やビタミンKを合成しており、私たちはその一部を体内で利用しています。

食事から摂るビタミンだけでなく、腸の中で日々「作られている」ビタミンもあるのです。

さらに興味深いのが、神経伝達物質との関わりです。
「幸せホルモン」とも呼ばれ、気分の安定に深く関わるセロトニンは、実は9割以上が腸で作られていることがわかっています。

近年の研究では、気分の落ち込みなど精神面の不調と腸内細菌叢(さいきんそう)の乱れとの関連を示唆する報告も増えてきています。

因果関係のすべてが解明されているわけではありませんが、「なんとなく気分が不安定だ」と感じる時期がある方は、腸内環境も一因になっている可能性があります。

ただし、腸内環境そのものも、睡眠、食事、生活リズムといった日々の習慣によって変化するものです。

なので、正確には「生活習慣の乱れが、腸内環境を通じて気分にも影響している」という捉え方の方が近いかもしれません。

もう一つ、腸内環境を理解するうえで欠かせないキーワードがあります。
それが「短鎖脂肪酸」です。

腸内に棲む善玉菌は、私たちが消化しきれずに大腸まで届いた食物繊維を発酵分解し、酪酸・酢酸・プロピオン酸といった短鎖脂肪酸を作り出します。

この短鎖脂肪酸には、腸のバリア機能を強化し、全身の慢性炎症を抑える働きがあることがわかっています。

実は食物繊維は、かつて「人体が消化・吸収できない、役に立たない成分」と考えられていた時代がありました。

私自身、学校でそのように教わった記憶がうっすらとあります。
人の体が直接消化できなかったものが、腸に届いて腸内細菌によって分解され、結果的に人の役に立つ物質へと生まれ変わる。考えてみると、なんとも面白い仕組みです。

強いランナーには、特有の腸内細菌がいる?

ここまでは一般的な話でしたが、ランナーにとって興味深い研究もご紹介します。

2019年に発表されたハーバード大学などの研究チームによる報告です。
ボストンマラソンの出場者の便を、レース前後で継続的に採取して調べたところ、運動をしない人と比べて、Veillonella(ベイロネラ)という腸内細菌が明らかに多く見つかりました。

この菌には、運動中に筋肉から発生する乳酸を取り込み、短鎖脂肪酸の一種であるプロピオン酸に変換するという特徴があります。

実際にこの菌をマウスに投与したところ、トレッドミルでの走行時間が、投与しなかったマウスと比べて平均13%長くなったと報告されています。

この発見をきっかけに、Veillonellaを活用したプロバイオティクスの開発を進めている研究者たちもいます。
また、「強い人の腸内細菌そのものを移植する」という便移植(糞便移植)という手法についても、一部で試みが行われているようです。

これはトレーニング(運動)によって腸内細菌にも変化が生じるという事例です。
運動は腸内環境に良いと言われますが、この事例からも納得ですね。

また、トレーニングをすると筋肉とか心臓とかが鍛えられる印象が強いですが、実は腸内細菌という体の内部にも変化があって持久力の向上に役立っているというのは面白く感じました。

ウルトラの胃腸障害の予防にも腸内環境が役立つ

腸内環境の乱れは、運動中の消化器トラブル(GIトラブル)にもつながります。

運動によって腸への血流が一時的に低下することに加え、腸内環境が乱れていると腸のバリア機能がさらに低下しやすくなり、補給食を受け付けにくくなったり、消化吸収がスムーズにいかなくなったりすることがあります。

日頃から腸内環境を整えておくことは、レース当日の胃腸トラブルを予防するための、地味だけれど大切な土台になります。

『ウルトラマラソン栄養完全ガイド』でも胃腸障害の予防について詳しく取り上げていますが、そこで一貫してお伝えしているのは、「レース当日の対策」だけでなく、それ以上に「レースまでの準備段階」が重要だということです。腸内環境づくりは、まさにその準備段階を支える土台の一つだと言えます。

腸を育てる食事:鍵は「多様性」

では、どうすれば腸内環境を整えられるのでしょうか? 現在の栄養学の主流な考えでは「多様性」がキーポイントであると考えられています。

一種類の食物繊維だけを大量に摂るよりも、さまざまな種類の食物繊維を摂ることで、より多様な腸内細菌が育っていきます。

イギリスの研究者ティム・スペクターは、著書『Spoon-Fed』の中で、一週間に30種類以上の植物性食品を摂ることが腸内細菌の多様性を高めると紹介しています。

いきなり30種類以上と言われると圧倒されてしまうかもしれませんが、まずはスーパーにどんな食材があるのか改めて数えながら見てみるところから始めると良いかもしれません。

玄米、雑穀、豆類、きのこ、海藻、野菜や果物——できるだけ幅広い食材を意識してみましょう。

さらに、発酵食品には直接的な貢献があります。

「生きた菌を食べても、どうせ胃酸で死んでしまうから意味がない」という意見を耳にすることもあります。

しかし私は、そうは思いません。

もともと無菌状態で生まれてくる赤ちゃんが、成長する過程で自然に腸内細菌を獲得していくことを考えてみてください。

その入り口は、口かお尻のどちらかしかないはずです。

口から食べ物と一緒に入ってきた菌が、腸に住み着いていく。
そう考える方が自然ではないでしょうか。

もちろん、すべての菌が胃酸を通過できるわけではなく、一部は死滅してしまうと思います。

それでも、生きた菌を含む発酵食品を日常的に摂ることには意味があると私は考えています。

アメリカの微生物学者ジャスティン・ソネンバーグは、著書『The Good Gut』の中で発酵食品を日常的に摂る食文化を持つ集団ほど、腸内細菌の多様性が高い傾向にあることを指摘しています。

日本人にとって取り入れやすい発酵食品といえば、味噌、納豆、ぬか漬け、キムチあたりでしょうか。

一種類だけを続けるのではなく、日によって違う発酵食品を組み合わせることも、腸内細菌の多様性を高めるうえで理にかなっています。

ちなみに私自身は、発芽発酵玄米を主食にし、自家製の味噌を仕込んで毎日味噌汁で飲み、納豆とキムチも毎日のように食べています。

効果を数値で証明できているわけではありませんが、この積み重ねが今の自分の体を支えている実感はあります。

まとめ:小さな改善の積み重ねを

ランニングの上達は、突き詰めればとてもシンプルです。

  • より良いトレーニングをする
  • よく眠る
  • より良い栄養を摂る

この3つを地道に積み重ねていくことに尽きると私は考えています。

劇的な変化を求めるのではなく、小さな改善を一つひとつ積み重ねていくことが、結局は一番の近道になります。

今日お伝えした腸内環境は、その「より良い栄養」を考えるうえでの、一つの着眼点です。

今日から完璧を目指してすべてを変える必要はありません。

まずは発酵食品を意識してみる、あまり食べたことの無かった植物性食品を加えてみるなど。

できることから、一歩ずつ試してみてはいかがでしょうか。

小さな改善を疎かにしない、その姿勢こそ最も大切だと直感します。

今日もお読みいただき、ありがとうございました!

-食事・サプリ・栄養学