こんにちは。
ランニングショップHolosの小谷です。
今日のテーマは暑熱馴化(しょねつじゅんか)です。
実は去年の同じ時期にもブログで取り上げたのですが、改めて検討する価値のある話題だと思います。
簡単におさらいすると、暑熱馴化とは「暑さに体を慣らして、パフォーマンス低下を最小限にする」トレーニングの考え方です。
研究によると5〜10日ほどの短期間でも、汗をかき始めるタイミングが早くなったり、心拍数が安定したりといった体の変化が起こることがわかっています。
具体的なやり方(あえて暑い時間帯に走る、厚着ランニングをするなど)については去年詳しく書きましたので、まだ読んだことのない方、復習したい方はまずこちらの記事をご覧ください。
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暑さに強くなる練習法|夏のランニングに効く暑熱馴化のやり方
こんにちは。 ランニングショップHolosの小谷です。 7月に入り、ますます暑さが厳しく走るのが大変になってきましたね。 「本当はもっと頑張りたいのに、暑くてどうにもならない」とお悩みの方も多いのでは ...
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今日は去年とは少し違う角度から、暑熱馴化について考えていきたいと思います。
東京五輪の金メダリストも本気で取り組んでいた暑熱馴化
暑熱馴化と聞いてよく思い出すのが2021年の東京五輪トライアスロン男子で金メダルを獲得した、ノルウェーのクリスチャン・ブルーメンフェルト選手です。
海外メディアの報道によると、彼のチームは大会前、タイで暑さと湿度を再現した合宿を行い、さらに自宅の一室を暑熱トレーニング専用の部屋に改造していたそうです。
さらに、深部体温をリアルタイムで計測できるセンサーを装着し、そのデータをもとに「バイクでは体温を上げすぎないように温存し、ランで一気に仕掛ける」というレース戦略まで組み立てていたと報じられています。
暑熱馴化のトレーニングは疲労を伴いますので、それを重視しすぎると純粋な競技力向上のための練習がしにくくなってしまいます。
一方で、世界レベルの選手たちの戦いでは純粋な競技力の差はそこまで大きくできないでしょう。
だからこそ、競技力よりも「暑さに強いこと」の差が活きたことも優勝の要因の一つだったのではないかと感じました。
私たち市民ランナーにおいても、大会によっては単純に走力アップを図るよりも、「暑さに強くなる」の方が最終的なタイムにプラスになることもあるかもしれません。
必要な暑熱馴化は人それぞれ
とはいえ、ここまでの本気度が必要なのは、暑い時期のレースで結果を求める、ごく一部のトップ選手の話です。
読者の皆さんの多くは、暑い大会で記録を争っているというより、「秋以降のレースに向けて、夏のトレーニングをできるだけしっかりこなしたい」という方が中心だと思います。
その場合、ブルーメンフェルト選手ほどの馴化はまったく必要ありません。
ただ、中には夏場にウルトラマラソンなど、暑い時期の本番を控えている方もいらっしゃると思います。
そういった方には、もう一段踏み込んだ準備をおすすめしたいので、先に触れておきましょう。
夏にウルトラを走る方へ、もう一段の準備
夏場のウルトラマラソンを控えている方には、レース本番と同様に、日差しのある日中の暑い時間帯にLSDを2~3回ほど入れておくことをおすすめします。
朝や夜の涼しい時間帯だけで練習を組み立てていると、本番で日差しを浴びながら長時間走る状況にどうしても対応しきれないことが出てきます。
90〜120分くらい、ペースはゆっくりで構わないので、しっかり水分補給をしながら本番の暑さを想定して走っておくと良いでしょう。
「この暑さは経験済みだ」というメンタル面の準備にもプラスに働くはずです。
また、暑い中では消化機能が落ちて補給がうまくいかなくなりがちです。
そのため、脂質をエネルギーとして使う効率(脂質代謝)を高めておく体作りも、夏のウルトラでは差がつきやすいポイントだと考えています。
空腹ランニング、間欠的ファスティング、低糖質食、Catalyst Cardio Performance(CCP)などですね。
水分と電解質の補給により注力して「仮に暑くてエネルギー補給が困難になっても、自分は大潰れしない」と思えれば大きなアドバンテージとなります。
脂質代謝はウルトラマラソンでの粘り強さと大きく関係しています↓
『ウルトラ後半に粘れる強い脚を作る方法』
秋以降のレースのための暑熱馴化
一方、残りの多くの方――秋以降のレースに向けて夏のトレーニングを維持したい方――には、私自身の今年の体感が参考になると思います。
次のレースは10月を予定しているので、今年の私は「暑熱馴化が軽めでOK」なタイプです。
先日、気温の高い日の正午ごろに50分ほどジョグをしてみました。
意図的に暑い時間帯を選んで走るのは、今シーズンに入ってまだ2回目です。
それでも今朝のいつもの朝練では、心拍数の上がりにくさをはっきり感じました。
1週間前の朝練では、普段より心拍数が+10ほど上がりやすい状態だったので、この数日でわずかに体が慣れてきたのを実感しています。
直感的には、あと2~4回(全体で4〜6回)くらいあえて日中の練習をすれば、適応としては十分ではないかと感じています。
では、どこまでやれば「十分」と言えるのか。
私の感覚では、普段メインで練習している時間帯(早朝や夜が多いと思います)で、暑いなりにそこそこの練習ができるようになっていれば、暑熱馴化としてはOKというラインです。
逆に、そのメインの練習時間帯ですら「暑さがネックで全然ダメ」と感じるうちは、もう少し暑熱馴化を強化する価値があると思います。
日中と夜、エアコンとの付き合い方を分けて考える
暑熱馴化を頑張っているランナーの中には、「暑さに強くなりたいから」と、日常生活でもエアコンを控えめにしている方がいらっしゃるかもしれません。ここは、日中と夜とで分けて考えることをおすすめします。
日中:不快に感じない程度に、使いすぎない
私自身、仕事などをしている日中の室内では、作業効率が落ちない範囲でエアコンを使いすぎないことを意識しています。
「暑さを我慢する」というより「不快に感じない程度」に留めるイメージです。
節電など環境面への配慮もありますし、外の暑さと室内の涼しさの差が大きすぎると自律神経が乱れやすくなる、という点も気にしているからです。
ただ、ここで一つ整理しておきたいことがあります。
「日中エアコンを控えめにすること」自体が、暑熱馴化のトレーニングになっているわけではないということです。
暑熱馴化は、運動によって深部体温がしっかり上がることが刺激になって起こる適応です。
運動を伴わない、じっと暑さを我慢するだけの受動的な曝露でも、ある程度の馴化効果があるという研究報告はありますが、そこで使われているのは日中の決まった時間に30〜90分ほど、体温を意図的に上げる「セッション」として設計されたものです。
仕事をしながら何となく暑さを我慢する、というやり方を前提にした研究は調べた範囲では見当たりませんでした。
なので、日中の「使いすぎない」は、あくまで環境面や自律神経への配慮からくるものであって、それ自体に馴化のトレーニング効果を期待しているわけではない、という点は分けて考えていただきたいです。
夜(特に就寝時):我慢せず、しっかり眠れる室温を優先する
一方、夜、特に就寝時については、我慢せずにきちんと室温を整えることをおすすめします。
人が眠りに入るとき、体は手足の血管を広げて熱を体外に逃がし、深部体温を下げることで眠りのスイッチを入れています。
寝室が暑いとこの放熱がうまくいかず、ノンレム睡眠(深い睡眠)、レム睡眠(浅い睡眠)が短くなるという報告もあります。
そして、ノンレム睡眠やレム睡眠が削られることは、日中の運動で生じた体のダメージからの回復や、トレーニング効果を定着させるプロセスにマイナスに働くことが、スポーツ科学の分野でも指摘されています。
つまり、こういうことです。
暑熱馴化は「深部体温が上がった状態を維持すること」が刺激になって起こります。
一方、質の良い睡眠は「深部体温がしっかり下がること」が前提になります。
この二つは、体温の動きとしてはまったく逆方向を向いています。
よって、同じ夜の時間で両方を同時に得ることはできないというのが私の考えです。
睡眠はリカバリーとトレーニングへの適応の要です。
私自身、過去に家族と寝室の好みの温度が合わず、家族に合わせて妥協する日々を繰り返していたら消耗して夏に十分な練習ができなくなってしまったことがあります。
読者の皆さんも日常的にランニングという形で一般の方以上の熱ストレスをすでに体にかけています。
少なくとも就寝時だけは、エアコンを適切に使って、しっかり眠れる室温を整えていただきたいと思います。
エアコンを適切に使うことは、決して「暑さに負けている」ことではありません。
日中にかけた熱ストレスからきちんと回復し、次の練習の質を保つための、合理的な選択だと私は考えています。
ガンガン冷やしすぎるのも良くありませんが、「我慢すること」自体を目的にしない方が良いのではないかと思います。
また、それでも夏は日中の疲労が溜まりやすく寝起きがどうしても辛いという方も増える時期です。
睡眠中のリカバリーを高めるための栄養との関係は以前こちらのブログで解説しましたので、お悩みの方は合わせてご覧ください。
『ランナー特有の朝のつらさ。寝起きのダルさがスッキリすると定評のある栄養素』
まとめ|必要十分な暑熱馴化と、我慢しないリカバリーで夏を乗り切ろう
今日は東京五輪金メダリストの事例と、私自身の体感を交えながら、暑熱馴化について考えてきました。
適切に取り組めば、暑熱馴化は大きな武器になります。
そして、その取り組みをきちんと効果につなげる鍵はリカバリーです。
就寝時は、我慢せずにエアコンを適切に使ってしっかり眠りましょう。
それが回復力を保ち、結果的に良い夏のトレーニングにつながります。
賢く暑さと付き合い、しっかりと「夏の仕込み」をして秋からのシーズンにつなげていきましょう!
今日もお読みいただき、ありがとうございました。