糖質制限はマラソンのパフォーマンスアップに有効か?
この記事は「糖質制限ってマラソンの記録を向上させるのには良いの?」ということに関心がある方向けの記事です。
次の3点についてまとめました。
- 全体として賛成派と反対派どちらが多いのか
- 議論されているポイントは何か
- 私が個人的に検証した結果
前提知識:人のエネルギー代謝
マラソンと糖質制限について考えるために必要な前提知識を1つ説明します。
走るためにはエネルギーを作る必要があります。(専門的にはATPの合成)
エネルギーを作るにはエネルギーの源となるものが必要です。
人のエネルギー源には糖質(グリコーゲン)と脂肪、タンパク質の3種類があります。
エネルギー源 | 特徴 |
糖質 | ペースが速いほど使いやすい。貯蔵量が少ない。 |
脂肪 | ペースが速いと使いにくい。貯蔵量が多い。 |
タンパク質 | 激しい運動などで使われる。ここでは一旦無視してOK |
フルマラソンのように長い距離を速いペースで走ると糖質がたくさん使われます。
糖質は貯蔵量が少ないのでペースが速すぎると枯渇してしまう可能性があります。
糖質が枯渇するとガス欠とかハンガーノックと言われる状況になりパフォーマンスが低下します。
(いわゆる「30kmの壁」の原因となりやすい要因でもあります)
そこで次のような2つの考え方が出てきているのです。
- 糖質制限肯定派
「糖質ではなく脂肪を使って走れる体をつくればパフォーマンスがアップする」 - 糖質制限反対派
「パフォーマンスが落ちないよう大会の時は糖質をしっかり貯蔵・補給しよう。日常も良い練習ができるようにきちんと糖質を食べよう」
ネット検索での勢力はほぼ均衡
インターネットの検索でマラソンのための糖質制限に賛成派と反対派のどちらが多いか調べてみました。
「マラソン 糖質制限」で検索。
上位2ページまでの記事で賛成・反対・中立の数を集計しました。
*ダイエット目的などは集計対象外としました
賛成 | 中立 | 反対 |
4件 | 5件 | 6件 |
反対派の方がやや多いですが、明らかに優勢という印象は受けませんでした。
なのでこのテーマに興味のある方がインターネットで調べてみても「どっちなんだろう?」と明らかな解決はできないでしょう。
書店ではどのコーナーにいくかで印象が変わる
ちなみに書店で調べてもスポーツと糖質制限の関係の書籍は少なく、明快な答えは出せないでしょう。
強いて言うと、どこのコーナーに行ったかで感じ方が変わると思います。
健康系のコーナーに行けば「糖質制限ブーム」とばかりに肯定派の書籍が溢れているので肯定派に。
スポーツのトレーニング理論系のコーナーに行けば「糖質は大事なエネルギー源」というのが基本的な考えなので否定派になりやすいかと思います。
賛成派も反対派もそれぞれの論拠となるエビデンスは存在する
賛成派と反対派の論拠となるデータ(エビデンス)はどうなっているのでしょうか?
従来のスポーツ・トレーニング系の教科書を手に取れば糖質が持久系パフォーマンスに大切というデータを豊富に見つけることができます。
例えばこんな権威ある書籍でも
『なお我々は、トレーニング中、炭水化物量を総エネルギー摂取量の70%(8~10g/kg 体重)まで引き上げることを推奨する』
とあります。
(『運動生理学大辞典』田中喜代次ら監訳 p36より引用)
一方で肯定派を支える研究もあります。
『Metabolic characteristics of keto-adapted ultra-endurance runners』
↑英語がお得意な方はご覧ください。
簡単に要点をまとめると、こんなことを言っています。
- 糖質制限に適応したウルトラランナーは脂肪利用率が高い
- 適応者は糖質制限食でも筋肉のグリコーゲンが十分に回復する
(人は体内で糖質を作る能力があるためありえない話ではない)
ちなみにこの「糖質制限に適応したランナーなら」という前提条件が従来の研究でほとんどされていないのが新しさのポイントです。
個人ブログなどを見ると成功例と失敗例が両方
研究とは別に個人ブログなどで糖質制限を実施した人の話に目を向けるとどうでしょう?
こちらも賛否両論です。
「疲れが取れない。良い練習ができない。走力が落ちた。」というような反対派がいれば
「自己ベストを更新できた。前より疲れにくくなった。」というような賛成派の声もあります。
ここまでの話を整理すると糖質制限がマラソンの記録向上に有効なのかは決着がついていない問題で、勢力も拮抗しているようです。
私の現状の考え
「明かな決着はついていない」ということを前提に現状の私の考えをお話しします。
条件としてはフルマラソンではなくウルトラマラソンのレベルで評価しています。
体重は53kgのやせ形なので「体重が何キロも減って記録が伸びる」ということはありません。
ここ最近の約8週間糖質制限をしています。
結論的には賛成派の方に心が動いています。
次のように考えが変化してきました。
- 6月(糖質制限1回目チャレンジ失敗)
→糖質制限はマラソンには良くない。 - 10/22(2回目チャレンジ2週間後)
→走れはするが、強度の高い運動で高いパフォーマンスを発揮するのはキツイ - 11/4(2回目チャレンジ4週間後)
→だいぶ楽に走れるようになってきた。
(でも糖質をしっかり摂っていた頃の方が力強さはあった) - 11/28(2回目チャレンジ8週間後)
→高い強度でも走れるし、長い距離をエネルギー補給無しでも走れる
(糖質を摂取していた頃に遜色ない力強さあり)
反対派に多いコメントに自分の経験を照らし合わせてみます。
反対派の意見「糖質制限をすると疲れる。回復しない。」
毎日とても快調です。
朝の目覚めが良く毎日が活動的です。
当ブログの更新頻度が10月以降高いことからも私の活動量の増加を感じていただければと思います笑
反対派の意見「高強度の練習はできない。」
先日行ったスピード練習の結果です。
糖質制限をしていない時と同等以上の強度で練習ができています。
また、上で紹介した研究データにあるように筋肉のグリコーゲンがきちんと回復しているという印象があります。
ちなみに朝食抜きの空腹状態で50kmのジョギングを行ったところ全く問題がありませんでした。
以前ならほぼ間違いなくガス欠になる条件でした。
これは糖質制限によって体内のエネルギーの使い方が変わってきた証拠であると思っています。
これは私にとってはとても重要な意味を持ちます。
というのも、今までは大会中にエネルギー不足を避けるために頑張って食べ物を押し込んでいました。
しかし後半に内臓が不調で食べられないという板挟みにあっていましたから。
24時間走の世界チャンピオンである石川選手が以前こんなことを言っていました。
「みんなウルトラでエネルギー補給を意識して食べ過ぎて苦しんでいるように感じる。
もっと少なめで、エネルギーがギリギリ持続できるラインを見極めて補給・ペースメイクするのも良いんじゃないか」
石川選手も普段は糖質制限をして成功したウルトラランナーです。
私も糖質制限に体が慣れてきて彼の発言の意味が少し理解できたように感じています。
まとめ
- 糖質制限がマラソンのパフォーマンスアップに役立つかは決着がついていないテーマ。
- 小谷の個人的な感覚としては糖質制限に賛成に動き始めている。
- 特に糖質の枯渇と内臓トラブルの板挟みに悩んでいたランナーは試す価値あるアプローチではないかと思い始めている。
逆にグリコーゲンの枯渇がネックになりにくい条件なら効果が薄いかも知れない:ハーフマラソンまでの距離、上級者にとってのフルマラソンなど。