こんにちは。
ランニングショップHolosの小谷です。
先日、お客様から次のようなご質問をいただきました。
私はフルマラソンがメインなのですが、ウルトラマラソンを走ったらフルマラソンも速くなりますか?
今年はウルトラにもエントリー予定です。フルとウルトラの相乗効果が出るような方法があれば教えてください。
皆さんはこの問いについて、どう思いますか?
エリートランナーと市民ランナーでは違う?
まずこの質問について科学的な研究がされているか調査してみたのですが、ウルトラを走ることがフルにどう影響するかというデータは見あたりませんでした。
なので、ここからは私の身の回りにある経験と推論になります。
まずエリートランナーの練習を観察してみると、フルマラソンを主戦場とする選手がウルトラマラソンの大会を本気で走っている例は聞いたことがありません。
(練習としてフルより長い距離を走ることはありますが)
トレーニングについて全てが明らかになっている訳ではありませんが、トップレベルともなればその設計はかなり洗練されてきているでしょう。
エリートレベルのランナーがウルトラを走っていないという事実は、エリートレベルになるとウルトラを走ることはフルマラソンにとってメリットよりデメリットの方が大きいと言えそうです。
では、私たち市民ランナーにおいてはどうかというと、意見が分かれるところだと思います。
現状の私の考えは「特定の条件の市民ランナーが適切にウルトラを取り入れたらフルも速くなる」というものです。
市民ランナーがウルトラから得られる3つのメリット
市民ランナーがウルトラマラソンに取り組むことで、フルマラソンにプラスになる理由は主に3つあると考えています。
1. トレーニングボリュームの増加
ウルトラマラソンに挑戦しようと決意したランナーは多くの場合、練習の距離が増えます。
ある研究(Tanda & Knechtle, 2015)では、市民ランナー(マラソン約2時間50分~3時間半レベル)を対象に、トレーニングとレース結果の関係を調べたところ:
- マラソンの記録 → 練習のペース(強度)との関係が強い
- 100kmウルトラの記録 → 練習の量(ボリューム)との関係が強い
という違いが見られました。
これが本当に因果関係を示しているのかは精緻な考察が必要ですが、トレーニングの方針としては概ね正しいと私は直感しています。
ウルトラを目指すことで生じる練習ボリュームの増加は、有酸素能力の基礎を大きく底上げします。
エリートランナーはすでに十分なボリュームをこなしていますが、市民ランナーの多くはまだボリュームに伸びしろがあります。
2. フルマラソンの距離への心理的な余裕
ウルトラを走ったからといって、全力で走るフルがきつくなくなる訳ではありません。
ただ、42.195kmという距離に対する不安感は減ると思います。
不安感は中枢性疲労という形でパフォーマンスを低下させる要因になります。
逆に成功体験や自信は中枢性疲労を軽減しパフォーマンスを高めることが分かっています。
3. オフシーズンのモチベーション維持
フルマラソンは主に秋〜冬〜春がシーズンです。
そのため、フルマラソンをメインで考えている方の中には5月〜9月頃はモチベーションが下がってしまうという方もいるでしょう。
しかし、この時期にウルトラマラソンの目標があると、負荷の高い練習を継続できます。
年間を通じて練習負荷を保てることは、長期的な成長にとって非常に重要だと思います。
ただし、これらのメリットはすでにボリュームが十分で、モチベーションも通年で維持できているトップレベルのランナーには当てはまりません。
このような場合分けが「ウルトラを走ることがフルの役に立つのか?」を考えるためには必要になってくるでしょう。
なぜ「遅くなる」人がいるのか

ウルトラマラソンに取り組んでフルマラソンのタイムが落ちてしまう方もいます。
その主な原因は次の2つだと考えています。
1. スピード練習の完全放棄
ウルトラマラソンを目指すと、走行距離を重視するあまりにペースの遅い練習ばかりになってしまう人は珍しくありません。
練習量は大事ですが、ペースの速い動きを全くしないと、フルマラソンペースにおいて必要な神経系、代謝系の機能が大きく低下してしまいます。
低下幅が大きすぎると、フルのシーズンが来てから取り戻そうとしても、時間が足りないリスクがあります。
よって、ウルトラシーズン中も、優先度は落としつつも最低限のスピード練習は継続することが大事だと思います。
私はこれを「能力維持のための練習」と呼んでいます。
能力を維持するために必要な練習は、新たに能力を高めるための練習よりも小さな投資で済むことが分かっています(能力を維持することは比較的簡単)。
また、フルマラソンのスピードを維持・向上することはそのままウルトラマラソンの記録にもつながります。
そう考えると、能力維持のための練習は短期的にも長期的にも効率的な練習といえます。
2. 大会を走りすぎて消耗
ウルトラマラソンの大会を詰め込みすぎて、体を消耗してしまう失敗パターンもあります。
目的が「大会を楽しむ」ことであれば問題ないのですが、「記録も目指したい」という場合は大会の入れ方には注意する必要があると思います。
ウルトラはフル以上に心身への負担が大きいので、大会後はしっかりと休む必要があります。
大会後に休まないと故障や燃え尽きリスクがあります。
しかし、しっかり休んだら休んだで、大会を詰め込んでいると、練習する暇もなく次の大会がやってきます。
大会を走っているだけで、強くなるためのちゃんとした練習ができていない状態です。
ウルトラの経験が浅いうちは大会に出て経験値を高めることのメリットも大きいので、ウルトラが目的なら出場数を多めにする戦略はありかもしれません。
しかし、経験値が高くなってくるとその戦略の効果は落ちてきます。
経験値が高いウルトラランナーが記録を目指したい場合は、大会を絞って練習の継続性を重視する戦略が大事になってくるのではないかと私は直感しています。
私自身の失敗経験:得意・好きに偏りすぎて頭打ちに
私自身の経験を思い出してみても、ウルトラとフルのバランスが崩れて伸び悩んでしまった失敗があります。
私の場合はウルトラ(その中でも24時間走など200kmを超える種目)が一番の目的です。
ウルトラが好きといっても、昔は10km、ハーフマラソン、フルマラソンと、ウルトラ以外の大会も楽しんでいました。
最初の2~3年はウルトラは年に1回100kmを走るくらいの頻度でした。
しかし、250kmや24時間走を経験すると、ウルトラマラソンがもっと楽しくなってしまい、比重がどんどんウルトラ寄りになっていきました。
ウルトラはダメージも大きいので、回復を待つ期間を設けると必然的に強くなるためのトレーニングができる期間も少なくなってしまいました。
さらに、通年でウルトラ向けの練習の比率が高くなるにつれて、記録の伸びしろが減ったように感じました。
以前は毎年10kmやハーフもPB更新かそれに近いタイムを狙えていたのに、ウルトラに偏重しすぎるとハーフマラソンでPB+3~5分くらいが当たり前に。
そして、どうしても今の実力をPBと比べてしまい、10kmやハーフに出場したいと思えなくなってしまい、ますます悪循環です。
最近では、その反省を踏まえたメニュー構成を意識するようにはなりました(ウルトラの期間中もファルトレクを中心にスピード練習を継続)。
ただ、やはり一定期間しっかり10kmやハーフに専念して大会で記録を目指すのと比べると、伸びはイマイチです。
超ウルトラからフルまで両立する櫻庭選手
私にとってお手本のような選手がいます。
24時間走日本代表の櫻庭選手です。
櫻庭選手は53歳になって24時間走で262.302kmという驚異的なPB更新をされました。
さらに、取材時点では24時間走だけでなく、フルマラソンでも毎年PBを更新されていたようです。
櫻庭選手は24時間走に向けた走り込みの期間(月間1000kmなど)であっても、週1回は必ず5kmのタイムトライアルをするよう意識していたそうです。
走り込みの疲れで「とてもスピードが出せない」と思うような日でも、その日にできる全力で5kmにチャレンジする。
その努力の積み重ねが通年での走力維持とフルマラソンでのPB更新につながっているのではないかと思いました。
また、代表的な年間計画として
- 11~3月中旬は主にフルマラソン
- 3月中旬~6月にかけては100km
- 7~10月は超ウルトラ
というように期間を分けて集中したトレーニングをしているようです。
まとめ
「ウルトラマラソンを走るとフルマラソンも速くなるか?」
この答えは「やり方次第でプラスになる」なのかなと思います。
特に市民ランナーにおいては:
- トレーニングボリュームの増加
- フルマラソンへの心理的余裕
- オフシーズンのモチベーション維持
というメリットが考えられます。
ただし、成功のためには:
- シーズンを分けてメリハリをしっかり(ウルトラ期とフル期)
- ウルトラ期も最低限のスピード練習を継続する(週1回でも)
- 大会を走りすぎず、強くなるために練習する期間を確保する
これらを意識することが大切なのではないでしょうか。
フルマラソンとウルトラマラソン、両方をバランスよく取り入れることで記録としても相乗効果があり、かつランニングの幅が広がって楽しみも増えたら最高ですね。
今日もお読みいただき、ありがとうございました。