こんにちは。
ランニングショップHolosの小谷です。
今日は練習不足で体力が低下した状態から、いかに早く走力を取り戻すかというテーマで考えていきたいと思います。
ちなみに私自身、今は9月の絶不調から少しずつ練習を再開して体力を戻そうとしているタイミングです。
誰もが長いランニング人生の中で故障や日常の忙しさなど、様々な要因で一時的に体力が低下してしまう時期があると思います。
そういうとき、頼りになる方針をぜひ一緒に学んでいきましょう。
脱トレーニング後に走力を効果的に戻す鍵はランニングエコノミー
まず、故障などで練習ができなくなってしまうと、心肺機能にどれくらい影響があるのか。
そして、低下した心肺機能を戻すのにどれくらいの期間がかかるのか、一般的な目安を見てみましょう。
研究の概要
Lepers et al. (2024)の研究『Effect of 12 weeks of detraining and retraining on the cardiorespiratory fitness in a competitive master athlete: a case study』では、平均53.8歳の高度に訓練された男性トライアスリート(VO2max 62 ml/kg/min)を対象に、12週間のトレーニング中断とその後の12週間の再トレーニングの影響を調査しました。
12週間の休止後の変化
- VO2max:サイクリングで9.1%、ランニングで10.9%低下
- ランニングエコノミー(RE):22%悪化(12km/hでの測定)
- サイクリング効率:6.2%低下
- 最大筋力:平均8.2%低下
12週間の再トレーニング後
- VO2max:ベースラインまで完全回復、むしろわずかに向上
- ランニングエコノミー:まだ17.7%高い(=効率が悪い)状態
- 最大筋力:まだ3%低い状態
この研究を読んだとき私が感じたことは「思ったよりも早く心肺機能は取り戻すことができるんだな」ということでした。
他の研究でも心肺機能の回復はトレーニングの休止期間の同程度かそれ以下の期間が目安という結果が多いようです。
(1か月休んでも、1か月のトレーニングで元に戻せる)
日常においては「少しくらい練習できなくても、焦ることは無い。忙しさで走れなかったり、疲れて休むことに不安にならなくて良い。」と心を大きく持つことが大切だと思いました。
本研究における最も重要な発見は、心肺機能(VO2max)は12週間で元に戻るのに対し、ランニングエコノミーの回復には時間がかかるということです。
つまり、心肺機能が戻っていても、走りの効率が悪いままだとパフォーマンスは戻ってこないのです。
実際にブランク明けで走っていると、自分のパフォーマンスがまだ戻り切っていないことは分かっても、それがランニングエコノミーの問題だとはなかなか気づけません。
少なくとも、私が直感的に感じてきたことはランニングエコノミーの低下ではなく「まだ心肺機能が戻り切っていないなぁ」というものでした。
しかし、この研究を読んで、ランニングエコノミー低下の影響に目を向けられた人は、「ただ走るだけでなく、ランニングエコノミーに効果的なトレーニングもしよう」と思えて、より早く走力を戻せるでしょう。
ランニングエコノミーを高める方法

では、次にランニングエコノミーを高める方法について考えていきましょう。
ランニングエコノミーは「あるペースで走っているときに、どれだけ酸素を消費したか」と定義されています。
この値が小さいほど、少ない酸素(エネルギー)で同じペースを走れるということになります。
つまり、ランニングエコノミーの改善とは、効率的な走りであり、同じペースならより楽に、同じ感覚でより速く走れるということを意味します。
ランニングエコノミーを高めるおすすめの方法が
①高負荷の筋トレ
②プライオメトリクストレーニング
の2つです。
おすすめの高負荷の筋トレ
高負荷の筋力トレーニングは、筋腱の剛性(スティフネス)を高め、エネルギーの貯蔵と放出を効率化することでランニングエコノミーを改善します(体がエネルギーロスの少ない硬いバネになるというイメージです)。
Albracht & Arampatzis (2013)の研究『Exercise-induced changes in triceps surae tendon stiffness and muscle strength affect running economy in humans』では、14週間の高負荷トレーニング(等尺性の足関節底屈収縮)により腱の剛性が16%増加し、酸素消費量が4%減少したことが報告されています。
この研究では足関節底屈筋(ふくらはぎ)の高負荷筋トレの効果が示されていますが、私は高負荷スクワットで同様の効果を狙っています。
具体的なトレーニング方法
・種目:スクワット、レッグプレス(マシン)
・負荷:6RMの負荷で4~5rep(あと1~2回上げられる余力を残して終える)
・セット数:3~5セット
・休憩時間:90~180秒(完全回復を優先、短くすることにこだわらなくてOK)
・頻度:週1~2回
生理学的な効果
高負荷の筋トレは、筋力の向上だけでなく、腱の剛性を高めることで「バネ」のような機能を強化します。
これにより、着地時のエネルギーを効率的に蓄え、蹴り出し時に放出できるようになります。
また、神経系の適応により、筋肉をより効率的に動員できるようになることも重要な効果です。
注意点
高回数(15~20回など)の筋トレでは、ランニングエコノミーへの効果は限定的です。
ランニングエコノミー向上には、5~7回前後で限界がくるような高負荷でのトレーニングが必要です。
ただし、スクワット(フリーウェイト)は慣れていないと故障、特に腰を痛めるリスクが高いので、筋トレ初心者の人は、まずは正しい動作を身につけることから始めましょう。
その場合、10~12回繰り返せる重さが丁度よいでしょう(いきなり高負荷でやらないこと)。
3~4か月筋トレをして、動作に慣れ、より重いウェイトを扱っても大丈夫と思えるようになってから高負荷を取り入れると良いでしょう。
いったん動作などをマスターしたら、その後は故障明けなどのタイミングでも自分が安全と思えれば、負荷の高めのウェイトから筋トレを再開しても良いでしょう。
また、高負荷のスクワットにどうしても不安がある人は、マシンのレッグプレスなら腰を痛めるリスクも低くなるので安心です。
おすすめのプライオメトリクス
プライオメトリクストレーニングとは、筋肉が伸張(エキセントリック)した直後に短縮(コンセントリック)するという「伸張-短縮サイクル」を利用したトレーニングです。
ジャンプやホッピング、バウンディングなどが代表的な例です。
ホッピングトレーニングの効果を示す研究
Engeroff et al. (2023)の研究『Progressive daily hopping exercise improves running economy in amateur runners: a randomized and controlled trial』では、34名のアマチュアランナーを対象に、6週間の毎日のホッピング運動(1日5分)がランニングエコノミーに与える影響が調査されました。
研究結果:
- 12km/hと14km/hの速度でランニングエコノミーが有意に改善
- 10km/hの遅い速度では効果が見られなかった
- 最大酸素摂取量(VO2peak)は変化なし
この研究から分かる重要なポイントは、プライオメトリクストレーニングの効果は速いペースほど顕著ということです。
4:15/km(14km/h)や5:00/km(12km/h)といった比較的速いペースでの余裕度を高めたい場合に、特に効果的と言えるでしょう。
具体的な実践方法
- 両足ホッピング:10秒×5~15セット(慣れに応じて増やす)
着地では膝を軽く曲げて、できるだけ高くジャンプする
地面との接触時間を最小限にするよう意識 - ボックスジャンプ、バウンディング、100~200mの流しなども効果的
ポイントは、「高い負荷」と「バネを使った」動作を意識することです。
アキレス腱などの腱組織の剛性を高め、エネルギーの貯蔵と放出を効率化することが狙いです。
私の実践していること

私はこれまでのランニング人生の中で、何度も思う通りに走れない期間があり、そのたびにブランク明けという感じで練習再開して体力を戻すことを繰り返してきました。
その経験と上記で紹介した理論はかなり一致します。
- ただランニングをするだけでなく、ウェイトトレーニングや流し(プライオメトリクストレーニングに近い)のような高負荷なエクササイズを組み合わせることで、練習再開から1.5~2か月くらいの段階での走力の戻りが良いと感じる。
(ただし、再開から1か月とか、短期的な視点だと筋トレをするよりもランニングの時間を優先的に増やす方が走力が早く戻ったと感じやすい気がします) - ブランク明けに高負荷なエクササイズを入れると、私の場合、4:20/kmより速いくらいのペースで走った時のリラックス感がより早く取り戻せる。
(ランニング、特にジョグの量を増やすだけでは、5:00/kmくらいの余裕度は高められても、4:20/kmを上回るようなペースでは無理している感が残りやすい)
私は現在進行形でブランク明けで体力を戻そうとしています。
今、実際にやっているのは次のようなメニューです。
月:ジョギング(60~80分)+200m流し
火:ジョギング(60~80分)+高負荷筋トレ
水:ファルトレク(1分 疾走+ 1分 jog)×10~15
木:ジョギング(60~80分)+200m流し
金:ジョギング(60~80分)+高負荷筋トレ
土:ファルトレク(1分 疾走+ 1分 jog)×10~15
日:ジョギング(60~80分)+200m流し
・週2回のジムの高負荷筋トレ(スクワット)
・流しやファルトレク(疾走区間が1分と短い)
でランニングエコノミーを刺激する「高負荷なエクササイズ」を取り入れています。
逆に、一般的な高強度練習と言われるインターバルのような、呼吸がキツイ状態を3~30分耐えるような練習は入れていません。
ちなみに、ジョギングの途中で遊び感覚で10歩くらいバウンディングのように高く上にバネを使って跳ぶような動作を数本入れたりすることもあります。
より簡単な実践
ジムでのスクワットなどはお金や時間の問題などで手に付けにくい方もいらっしゃると思います。
手軽にできるシンプルな方法としては
- スクワットジャンプ(10回程度で良いので、集中してできるだけ高くジャンプ)
- 5分間のホッピング(15秒ホッピング+45秒休憩)×5など。
両足を腰幅程度に開く
着地時は膝は僅かに曲げて、できるだけ高くジャンプ
地面との接触時間を最小限にするよう意識 - 100m~200m流しのようなダッシュに近い速い動きをすること
- 先述の私のバウンディングのようなバネを効かせた動きをジョギングの途中などで遊び感覚で挟むこと
- 上り坂ダッシュ(100m程度)
などでしょうか。
とにかくポイントは、ジョグだけにならず、「高い負荷」「バネを使った」動作を意識して導入することだと思います。
もちろん、故障明けなどは不安もあると思うので、再開から2週間は安全のためジョグだけにして、慣れてきたら少しずつダッシュを入れるなど、自分の調子に合わせて調整してくださいね。
今回の内容で、皆さんがより安心して休んだり、効率的に体力を戻して大会を楽しめるようになれば嬉しいです。
今日もお読みいただき、ありがとうございました!