ランニングのソーシャルディスタンスは10m?

こんにちは、ランニングショップHolosの小谷です。
今日はランニング中のソーシャルディスタンス(新型コロナウイルスの感染予防のためにとるべき対人間の距離)についてです。

みなさんはこちらの記事をご存じですか?
『Belgian-Dutch Study: Why in times of COVID-19 you should not walk/run/bike close behind each other.』

こちらの記事は二人の人が同じ方向に移動(ある人の後ろを別の人がついてくるような動き)しているときに飛沫がどれくらい後方まで残っているかをシミュレーションしたという記事です。
結論として「ランニングではソーシャルディスタンスが10mくらい必要ではないか」という主張をされています。

よくニュースなどでは2mくらいが目安としてあげられることが多いので「そんなに間隔をあけないといけないの?」と驚きや不安を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、この記事に対して「まったく信用できるものではない」という意見の方もいらっしゃいます。
この記事ではそういった方々の声も引用しつつ、私なりに考えていることを整理しようと思います。

査読がされておらず他の専門家による確認を受けていない

学術的に信頼のおける研究は査読(さどく)を通過するものです。
査読とはその研究を行った人とは別の専門家が内容をチェックし、内容に不備がないかを検証することです。

この記事の研究はこの第三者のチェックをきちんと通過していません。
よって、そもそもの結果が正しいかもわかりません(間違っているともいえませんが)。

この視点について石井好二郎さんの投稿が参考になったので引用させていただきます。

※シェアを歓迎します。【ベルギーとオランダの研究者による、歩行・走行・サイクリングの際の社会的距離が5フィート(約1.5m)では不十分とする研究の問題点が指摘されています】SNSを通じて、歩行・走行・サイクリング実施時に、前方の人物の…

石井 好二郎さんの投稿 2020年4月14日火曜日

  • 査読を経て公開されていないこと
  • 実施したシミュレーションの計算過程が不明確であること
  • 研究グループに医学系の研究者がおらず、物理的なシミュレーションをしただけであること

これらの点から本研究の結論をうのみにすることに警鐘を鳴らしています。

海外大手メディアRUNNER’S WORLDでも注意喚起の記事

アメリカの大手ランニングメディアの『RUNNER’S WORLD』でもこの記事に対する注意喚起の投稿がされています。
『Be Careful Sharing This Viral Simulation—It’s Not an Actual Scientific Study』
(小谷的翻訳→この感染的なシミュレーション記事をシェアするのは注意! 科学的な研究ではありません。)

  • しっかり検査された科学的なものではないこと
  • 物理的なシミュレーションとしては間違っていないことを言っているかもしれない(飛沫が空間的に広がる範囲は現実と近いものかもしれない)が、それと感染リスクは別問題であること
  • 過度に不安が広がりランニングがしにくい社会になっては逆に健康・精神上のリスクが高まる恐れがある

というように批判的な見解が述べられています。

特に以下の主張は注目に値するものだと思います(小谷意訳)。

「ソーシャルディスタンスが10mと考えてより慎重に行動する(それくらい距離をとって走ったり、人とすれ違うときは息をとめるなど)こと自体に害はないかもしれない」
「しかし、この説が広がってランニングやバイクをするべきでないという結論にいたったら運動の肉体的・精神的な恩恵を手放すことになる。それは有害である。」
「このようなニュースを広めることには慎重にならなければいけない。
この病気(誤った結論による弊害)がこれ以上広まるのを防ぐためにも。」

これは先述の石井さんの考えとも重なります。

『私(石井)は、この研究(とは呼べませんが)が人々に疑心暗鬼を生じさせ、不要ないさかいを生んでしまうと危惧しています。
(数メートル先を走っている人に対し、「お前!なに走っているんだ!オレに感染させる気か!」という状況が目に浮かびます)』

ちょうどこの記事を書いている今朝、SNSを見ていたらマスクを着けずに走っているランナーに憤りを感じている方の投稿が流れてきました。
実際にどれくらいの距離をおいて走っていたのか、息遣いのあらさ、咳をしていたかなど詳細はわかりません。
ただ、
「そうだ! マスクも無しなんて非常識だ」という賛同する声
「それは気にしすぎだ」という反対派の声
両方がみられました。

ネット上だから攻撃性が増すように見えているというのはありますが、石井さんの危惧するいさかいを目の当たりにした気分でした。

原文や他の方のコメントを読んで私が考えたこと

私も実際に研究の論拠となる原文を読んでみました。
空気力学(?)などの詳細はわからないのでとばしつつ、どんなことをしていたのかをザックリと把握しようというレベルですが…

そこから個人的に感じたこととしては
シミュレーションの1つにすぎず、「行動を変えなければ!」と思うほど確証性のある感染リスクについての情報源ではないということでした。
危険性を過大評価も過小評価もしないためにはまだいくつか問わないといけないことがあると思いました。
(医療の専門家でも何でもない一市民が情報収集して感じたことにすぎませんがご容赦ください)

  1. そもそもシミュレーションとしての正しさ(モデル選択や導出過程の妥当性)を示す第三者のチェックがいる?
  2. 実際にシミュレーション結果を事実の観察(つまり実験)と照らし合わせて妥当性を検証できないか?
    (そもそもシミュレーションは飛沫の特徴や無風という環境など、現実を近似した条件で計算しているだけです)
    (素人考えなので間違っているかもしれませんが、実際に人を走らせて飛沫がどのように飛散していくのかを計測できれば物理的な妥当性には納得がいくと思いました。
    実験コストとかを考えるとそこまでやるメリットはないのかもしれませんが)
  3. 物理的な飛沫の飛散と感染リスクを結びつける
    飛沫が物理的にどのように飛散するかわかったとして、その”飛沫が分布する雲”に入ることがどれくらい危険なのか?
    (これには医学系の研究者の意見が必要ということでしょうか)
  4. 他の事実との整合性
    例えば「必要なソーシャルディスタンスが10mだったと仮定すると、現実の感染数がこれだけに抑えられるはずがない」などの見方もでてくるかもしれません。
    また、RUNNER’S WORLDの記事では
    「飛沫は非常に速く蒸発すること。
    そして、新型コロナは蒸発したら感染力を失う(空気感染しない)と中国の75,000件の症例分析から考えられている。」
    ことから本研究はリスクを過大評価しているとあります。
    →空気感染と飛沫感染についてはこちらの記事がわかりやすかったです

私がこの研究をした人物だったとしたら
「10m離れることを提案します」
という結論ではなく、こういうニュアンスのメッセージになるでしょうか。

「飛沫の空気力学シミュレーションしてみたら、自分が思っていたより遠くまで広がるかもという結果になりました。
ひょっとしたら、私たちはもっと距離をとってランニングをした方が良いのかもしれないと思ったのですが、医療系とか他の専門家の方々、どう思いますか?
何か感染予防のヒントになる材料になりませんかね?」
という感じです。

行動としての提案

以上をまとめると、冒頭で紹介した記事はまだそれだけでは信頼性に乏しいと私は思います。
なので、仮に私の前方10m以内をランナーが走っていても、不安に感じることは現状ではないでしょう。

しかし、それでも可能ならできるだけ距離をとったり、人の少ない場所・時間帯を走るにこしたことはありません。
他の方が私と同じように感じているわけではないでしょうし、そうした方を不要に怖がらせたくもありません。

安全に周囲の方たちにも配慮しながらランニングをするにはどうしたら良いのか?
私がどういう点に注意してランニングをするのかについてはこちらの記事で紹介しました。

新型コロナ渦でのランニング|厚労省の発表と海外事例

また、本研究や対策についてはトライアスリートの八田さんのnoteも詳しく読みやすくまとめられていました。
よろしければこちらもご参考にどうぞ。